受診手控えで経営に深刻影響、奮闘する開業医の姿も
京都府保険医協会は、新型コロナウイルス感染拡大による医療機関への影響を調べるため、4月30日から5月8日にかけてFAXで緊急アンケートを実施しました。FAX登録している診療所会員1623人のうち486人(30%)から回答を得ています。
アンケート結果からは、感染を懸念しての受診手控えで外来患者数が減少していることに加えて、感染防止対策の費用も経営を圧迫していることがうかがえます。この調査から、スタッフとともに感染リスクを負いながらも懸命に対応する開業医の姿と、一方で「閉院」も口にせざるをえない状況が迫っており、このままでは地域医療に深刻な事態をも引き起こしかねない状況が明らかとなりました。この内容を踏まえて5月28日に国、京都府、京都市に向けてそれぞれ要請を行っています。
このアンケート結果は、京都保険医新聞3075号(2020年6月10日発行)にも掲載しました。
以下、保険医新聞掲載内容を転載します。
受診抑制で9割以上が収入減
2020年4月の外来患者数の状況については、前年同月比で92%が「減った」と答えた。それに伴い、保険診療収入も91%が「減った」(図1)と答え、減少幅は「~30%」が63%、「~50%」が21%、「~70%」が4%、「70%以上」が3%で、患者数減とほぼ対応した数値となっている。30%までの減収が最も多いが、30%以上も28%みられる。
具体的には、投薬のみや長期投与の希望増、電話再診増のほか、リハビリの手控え、ワクチン接種控えなどが起こっており、こうした再診の受診手控えはもちろん初診患者の減が顕著に表れているという。こうした状況に、「長期投与で患者の病状把握ができなくなることを心配」「受診控えで悪化した」という声が聞かれる。
診療状況については、「通常通り診療」が89%、「診療日数・時間を減らしている」が9%、「休診している」も1%あった。スタッフの対応については、「特に変更なし」が61%、「勤務調整」25%、「勤務日数減」15%で、子どもの休校などで「出勤できない職員がいる」も9%あった。
公的な発熱外来の設置を
発熱患者への対応を複数回答で聞いたところ、「来院自粛をお願い」が37%で最も多かったが、「別室で診療」27%、「院外で対応(車中、インターホン等)」25%、「動線を分離」22%、「時間を変更」15%など、診療所でも何とか工夫をしながら診ていることがわかる。
こうした院内感染防止にもコストをかけざるを得ない中で、下記のように奮闘するようすも書き込まれている。しかし、個別の医療機関で対応するには限界があるため、「公的な発熱外来を地域ごとに設置してほしい」という声が20近く寄せられている。
「自院駐車場を発熱外来のため開放し別室を増築、専任のスタッフを配置し、院内すべて診療前にスタッフ全員で消毒作業を毎日行っている。財政的にもスタッフの精神体力的にも限界となっている。患者さんの感染予防のためと思い行っているが、いつまで続くか不安。受診控えが続く中、高額なマスクやアルコール等、明らかに出費が多く経営的に成り立っていかない」「発熱外来に近いことをめいっぱいしてきたが、職員の健康も考え縮小せざるをえない。PCRや検体検査、軽症例の隔離などすべきこと、当然のことがなされず(むしろ放置のようにみえる)、幸い当地は保健所の努力で医療崩壊を何とか免れているが、たまたまではなかったか危惧する」
マスクなど資材がいまだ不足
調査時点で、感染防御に必要な医療資材が「充足」と答えたのは、マスク32%、手指消毒剤26%。いまだ行きわたっていない状況がうかがえる。防護具は10%と、すべての医療機関で必要とされているわけではないにしろ、心もとない状況である。この結果を受けて、協会は会員への有償でのマスク販売斡旋も行った。
検査依頼した半数が拒否経験
PCR検査の依頼については、35%(172人)が「ある」と答え、その内の53%(92人)が検査を拒否されたことが「ある」としている。全国的に検査数が増えないことが問題視されてきたが、これだけの医師が検査拒否を経験しているというのは驚くべき事態である(図2)。
意見欄には、「PCR検査のハードルが高すぎる」ことへの不満が多く、「すばやい検査態勢」を望む多数の声が寄せられている。「地域ごとに発熱外来、PCR外来を設置して対応してほしい」という声も多く、4月末に稼働した「京都府・医師会京都検査センター」への期待の声もきかれる。
また、保健所とのやり取りについても「患者が保健所に検査を希望しても、かかりつけ医に行くよう言われ来院してくる。診療所に感染を広げているだけではないか」「防護服もない状態で、保健所から発熱者を送ってこられても困る。なぜ検査を拒むのか理解できない」「検査の結果連絡がないので、職員の不安が解消されない」などがある。
風評被害については、12%が「ある」と答えた。「感染を恐れて来院しなくなった」など「受診抑制がかかっていること自体が被害」だと捉える意見もあったが、「患者がでたという噂が広がった」「スタッフが近所で避けられた」など直接の被害も報告されている。
全医療機関に早急な支援を
国・自治体などの助成金や融資の申請については、「予定していない」が66%、「検討」が27%、「したいができない」4%、「申請した」が3%で、複数回答で希望する支援策をきいたところ、「損失への補填(給付金)」が32%、「人件費への補助」31%、「納税等の猶予」22%、「家賃等への補助」16%、「資金繰りの補助(特別融資など)」14%の順であった。
国の持続化給付金は前年同月比50%減を対象とするため、多くが対象から外れる。「もっと緩和してほしい」という切実な声もきかれる。診療報酬は診療月の2カ月後に医療機関に振り込まれるため、今後一気に経営が悪化することが懸念される。
国及び京都府、京都市に要請
協会は全ての医療機関の経営支援をすること、感染防御の資材提供もしくはそのための財政支援をすることを、国及び京都府、京都市に対して5月28日に要請を行った。
国への要請は、①全ての医療機関が経営破綻を起こさないよう、減収分を全額補填すること。方法は、清算する必要のないかたちで診療報酬の概算前払いを行うこととし、開業1年を経ていないところについては、実績のある直近月で概算計算して支払うこと②新型コロナ感染拡大に対応した院内感染防止対策(下記も含めて)のための財政措置を行うこと③医療用マスク、消毒液等の確保を早急に行うこと。また、感染防止以外でも不足しているインスリン自己注射患者用のアルコール綿などの資材についても早急に行きわたるようにすること④新型コロナウイルス検査を早急に拡大するとともに、公費負担で医療従事者に検査を定期的に実施できるようにすること―の4項目。
京都府への要請は、①PCR検査も担う公的な発熱外来を最低でも各保健所管内に1カ所設置すること②新型コロナウイルス感染症拡大を受け、経営危機にある診療所に対する支援制度を創設すること③全保険医療機関へ感染防御に必要な医療資材を充分に支給すること。同時に、感染防御のための施設整備に対する財政補助制度を創設すること―の3項目。京都市へはこれに加えて市内すべての区役所・支所に保健所機能を復活させることを求めた。
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