福祉増進よりも医療費抑制が自治体の仕事に?
奈良県は、2018年4月からの国民健康保険制度の都道府県化を契機に、 「高齢者の医療の確保に関する法律第14条」に定められた(診療報酬の特例)の 適用を打ち出しました。
奈良県が昨年度(2018年3月)に策定した「第3期医療費適正化計画」は、国の 準備した推計よりももっと厳しい計算の仕方で6年後の医療費(抑制)目標を立て、 その達成に届かない場合は〈診療報酬の特例〉を活用して、診療報酬単価(1点10円)を 一律に引き下げることも検討するとしています。
これは、医療費適正化計画で医療費目標を立て、国保都道府県化と地域医療構想による医療費管理を 担わされた都道府県が、「住民の福祉の増進」よりも、医療費抑制を重視する国の狙い通りの展開で、 いわば「典型モデル」になると考えられます。 協会は2007年に、後期高齢者医療制度の根拠法である同法が成立する以前から都道府県別診療報酬とは トンデモない話であり、絶対に活用させてはならないと言い続けてきました。
最初のうちは、診療報酬の 決定権限を都道府県が持つなどという話は荒唐無稽で、現実性がないという声も聞かれましたが、それ以降、 国が着々と進めてきた医療政策の展開(都道府県による保険財政と医療提供体制の一体的管理システムの構築) の結果、都道府県自身が独自に診療報酬を設定したいと言い出すところまできてしまいました。
つまり、「絵空ごと」にも思えた構想が差し迫った危機となりつつあるのです。 2018年4月11日の財政制度審議会・財政制度分科会で「奈良モデル」が紹介され、5月23日に公表された 「新たな財政健全化計画等に関する建議」、そして6月15日の「骨太方針」にも「地域独自の診療報酬」が 書き込まれました。それは奈良県が言っていることとまるで同じです。
「国保財政の健全化に向け、法定外繰入の解消など先進事例を後押しするとともに横展開を図り、受益と負担の 見える化を進める高齢者の医療の確保に関する法律第14条に基づく地域独自の診療報酬について、都道府県の 判断に資する具体的な活用策の在り方を検討する」 (経済財政運営と改革の基本方針2018 P57) http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/decision0615.html
保険で良い医療と良い医業を成立させる日本の国民皆保険体制を根底から解体する地域別診療報酬の動きを 「奈良ローカル」と軽視することはできません。 奈良県で万が一、診療報酬の単価が引き下げられれば、医療機関の開業・就業、患者の受療動向にも大きく影響を 与え、隣接県から隣接県へと、全国に都道府県別診療報酬が拡大する危険性があります。その時が、国民皆保険が 保障してきた保険医療のナショナルミニマムの終焉です。
協会は、会員のみなさんとともに、まずは奈良県の動きを断念させる取り組みを進めていきたいと考えています。