今、医療の世界を揺るがしている「医師の働き方改革」。
安倍政権の進める「働き方改革」が法案化され、国会審議に付されることとなり、医師も例外でなく、長時間労働の是正等が求められることになっています。ただし、医師の場合は5年の猶予期間が与えられ、厚生労働省は「働き方改革に関する検討会」を立ち上げ、「規制の具体的な在り方」や「労働時間の短縮案等」を検討しています。
その一方、今国会に提出される見通しが濃厚となっているのが「医師偏在是正」のための医療法・医師法の改正法案です。働き方改革に比べ、ほとんど報道で取り上げられていないのですが、これは重大な内容を含んでいます。
1月24日に開催された第59回社会保障審議会医療部会では(検討中の内容)として、法案概要が提示されました。
それによると、国が各自治体の医師の多寡を現在と将来の人口を踏まえ、地域ごと、診療科ごとに統一的・客観的に把握できる「医師偏在の度合いを示す指標」を導入し、可視化する。この指標により、都道府県知事が「医師多数区域(仮称)」と「医師少数区域(仮称)」を指定し、具体的な医師確保対策に結びつける。
そして、「医師少数区域」で一定期間勤務した医師を、厚生労働大臣が「認定社会貢献医師(仮称)」として認定する仕組みを導入する。「認定社会貢献医師」は、広告可能事項や経済的インセンティブを与えられ、地域医療支援病院等の管理者として評価される、という新たな仕組みが法案化されます。
さらに、医学部時代・初期臨床研修・新専門医制度研修の各ステージにおいて、都道府県が医師偏在対策を講じられるように知事権限等の法制化も提案されるようです。
そして注視すべきは、「外来医療」についても不足・偏在の対応が提案されることです。
厚生労働省の資料には「外来医療については、無床診療所の開設状況が都市部に偏っており、また、医療機関間の連携の取組が、個々の医療機関の自主主的な取組に委ねられている等の状況を踏まえると、(1)外来機能に関する情報を可視化し、(2)その情報を新規開業者等へ情報提供するとともに、(3)地域の医療関係者等において外来医療機関間での機能分化・連携の方針等について協議を行うことが
必要である」と書かれており、(3)については、現在の地域医療構想調整会議の活用が想定されているのです。
先に述べた「医師偏在指標」を用いて、地域の医師の多寡が可視化される中で、外来医療機関の機能分化・連携の協議が行われるということは何を意味するのでしょうか。
「医師多数区域」と指定された地域では開業規制がなされることは容易く想像できます。
厚生労働省の資料には、「無床診療所の開業規制を行う場合の課題」が整理されています。
そこには「自由開業制との関係」「国民皆保険との関係」「雇い入れ規制の必要性」「新規参入抑制による医療の質低下への懸念」「駆け込み開設への懸念」とあります。
厚労省はかなりまじめに、開業規制を検討しているのではないでしょうか。
今日の医師の姿は自由開業制のもとで形作られてきたものといえます。
医師や医療のあり方を大きく転換する可能性が高い法改正が、今国会で審議されます。
働き方改革とともに、看過できない動きです。