偏在解消論の正体が露わに
国がめざす、医師に対する規制を伴う地域偏在解消策。協会は、いつでも・どこでも・誰でも必要なときに必要な医療を必要なだけ受けられる国民皆保険の仕組みが、十全に発揮されるためにも、医師や診療科の偏在解消は課題であり、国、自治体、医療者が知恵を出し合って対策を進めねばならないと考えています。
しかし国は、「偏在解消」を謳いつつも、その本音は「医療費を抑えるためにどうするか」にあるのではないか。そんな疑念を裏付けるような資料が、相次いで公表されています。
10月21日、経済財政諮問会議(骨太方針をつくっている「有識者」会議です)の席上、厚生労働大臣の塩崎氏が報告したスライドである「経済・財政一体改革(社会保障改革)の取組状況」もその一つ。
内閣府ホームページ
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2016/1021/shiryo_04.pdf
骨太方針の掲げる目標実現(600 兆円経済への道筋!)に向けて推進されているのが経済財政一体改革です。そこでは、「医療費の地域差半減」が目標に掲げられています。
都道府県間の「一人当たり医療費」の差を縮減することが、医療費抑制の一大テーマなのです。
塩崎大臣のスライドからは、地域差の要因が入院医療費についてなら医師数・病床数との関係性が高く、外来医療費では医師数に加え、後発医薬品使用割合等が影響しているとの見解が読み取れます。そこで、2018年度からの第3期都道府県医療費適正化計画では、医療費支出目標の算定式で
・入院医療費
地域医療構想を通じた病床機能の分化で「高度急性期・急性期を減ら」すこと。療養病床の入院受療率の地域差を解消させること。
・外来医療費
後発医薬品の普及割合の80%達成。糖尿病重症化予防。医薬品の投与の適正化。特定健診・保健指導実施率の全国目標(各70%、45%)の達成。
…を、盛り込んだのだ、と説明しています。
同日の会議では民間議員も「一人当たり医療費の地域差半減に向けて」を提案しました。
内閣府ホームページ
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2016/1021/shiryo_06.pdf
民間議員らは「医療費適正化に向けたガバナンスの確立」と称して、第2期都道府県医療費適正化計画(2013~17年)の目標に対し、実態の医療費がかい離している(適正化=抑制できていない)都道府県を「見える化」(見せしめに?)するように求め、「一人当たり医療費の地域差上位5位(福岡・高知・佐賀・長崎・北海道)、下位5位(長野・岩手・静岡・千葉・新潟)」の人口10万人対医師数、同病床数、後発医薬品使用割合を、実際に図表で示しています。
まるで、上位5県はぜいたくに医療費を使ってけしからん、下位5県は質素で堅実に医療費を使ってえらいと言わんばかりです。
その上で民間議員が提案するのは、都道府県の専門医定員の調整や病床調整への権限を強化し、医療給付費と保険料の関連を高め、重症化予防など医療費適正化の取組に応じて調整交付金を大胆に傾斜配分すること。さらに市民に対しては「特定健診やがん検診等の受診者と未受診者で保険料率に差を設ける」ことさえ打ち出しています。
これらの議論には、いかに医療を保障するかの観点は皆無です。
ひたすらに歳出抑制を追い求め、レセプトデータを使った数字を組み合わせ、あたかも医療費が無駄で非効率な使われ方をしていると最大化して見える化=描き出している。そのように思われてなりません。医師の偏在解消というスローガンの下、進められる医師の管理・統制の正体が、ここに透けて見えているのではないでしょうか。
協会は、今年度の地区医師会の先生方との懇談会で、こうした問題について、ぜひ先生方からのご意見をたくさんいただき、国・自治体への要望活動に活かしていきたいと考えています。
京都の先生方から、闊達な議論が巻き起こることを願って止みません。