輪行: サイクリング 公共交通機関を使ってサイクリングを始める所まで自転車を持って移動する事(広辞苑第七版)
輪行散歩とトンネル
私は平地を選んでサイクリングする無精者ですが、日本で峠を越えないで走るわけにはいきません。喘ぎながら坂道を登って、高速で走り下るのはサイクリングの醍醐味のはずなのに、峠を短絡するトンネルが現れるとうれしくなります。
暗いトンネルの中は冷たく静まり返っています。一人で走っていると、大声で歌の一つもこだまさせてみたくなる世界です。出口が丸く明るんで見えるのも楽しい。トンネルを抜けると、海や山並みが明るく開けます。
長いトンネルに入る前はいったん自転車を止めて、前照灯とサドル下の赤色点滅ランプを点けます。
コンクリートの新しいトンネルには立派な側道(歩道)が備わっていますが、古い国道トンネルの中には、生きた心地のしないような狭いトンネルがあります。そんな時は、車の流れが途絶えたところで乗り入れ、スピードを上げて抜けるのですが、後ろから車が一台でも追いかけて入ってくると、トンネル全体が轟音に包まれます。暗いし、耳は頼りにならないし、あとは振り返らずに念仏を唱えながら走ります。
2011年9月の大きな台風の直後、若狭湾の海岸道を西に向かって輪行散歩をしていました。小浜市に入ると、海沿いの道235号線が嵐で壊れて通行止めでした。舞鶴方面へ向かうには国道を走るしかありません。後瀬山トンネル(600m)に来ましたが、通行車両がひっきりなし。主要トンネルにしては入口があまりに狭い。どうしても流入する勇気が出ない。仕方なく駅前の交番に行き尋ねました。
「27号のトンネルがやたらに狭いし、235号は通行止め。地元の人の迂回路を教えてほしい」
数人の警官が詰めていて、口々に警告。
「今は国道以外に西に行く道はない。あのトンネルでつい先日、自転車の死亡事故があったとこや。ヤメナハレ、ムリ」
サイクリングは立ち往生。
普通は中止する場面ですが、ここは駅前。自転車袋が非常袋の役を果たします。電車に自転車を載せて、JRトンネルで小浜を脱出しました。
二駅先から再び自転車で走りましたが、東舞鶴駅に着いた時にはとっぷりと日が暮れていました。
題の絵・挿絵も筆者
寂しからずや、単独行
トンネルの向こうはまぶしい播磨灘