医師が選んだ医事紛争事例 89  PDF

賠償責任のない二重の誤診

(50歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 バイクを運転中の交通事故で当該患者が時間外に来院。初診だった。頚部や肩、骨盤等の単純撮影検査を実施した。翌日に改めて整形外科を受診して、骨盤打撲と診断。患者は痛みが治まらないため、A医療機関に転院して通院を継続していたが、5カ月後にそこで右側骨盤の骨折が認められ、当時の交通事故によるものと診断された。患者は後遺障害第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」が認定されており、交通事故の示談は終了していた。
 患者側は、レントゲンフィルムで骨盤骨折を見落としたとして賠償を請求してきた。
 医療機関は、患者側に骨折の見落としは事実であったとして過誤をいったんは認め、A医療機関の診断と同様に、交通事故による骨盤骨折と診断したが、当該医師が退職後、後任の医師が検討した以下の点から賠償責任はないと考えた。
 ①交通事故当時の当該医療機関のフィルムを見る限り、骨盤骨折と診断されたものは、実際は陳旧性、あるいは骨折でない可能性がある。したがって、当該医師が交通事故による骨盤骨折と診断したのは誤りの可能性がある。
 ②この骨盤「骨折」が、仮に見落とされていなくても、痛みの余分な持続や後遺障害を含め、患者に新たな損害は認め難い。したがって、仮に①が否定されても、患者に賠償する要因がない。
 ③患者はすでに骨盤「骨折」に関しても、交通事故の保険で賠償されている。したがって、これ以上、患者が賠償される理由はない。
 紛争発生から解決まで約1年8カ月間要した。
〈問題点〉
 レントゲンフィルムを確認したが、右骨盤臼蓋部の幅約2㎜の線状の骨融解像は、骨化不全によるもの。これは、医療機関の主張①の通り、仮に骨盤骨折としても、陳旧性のものとしても、いずれにせよ交通事故による外傷性の骨折ではないと診断してよい。②③に関しても患者が反論できる要素はないと思われる。骨盤骨折に関して、骨折の事実、さらに交通事故との因果関係があると、二重に誤診した事実はあるが、賠償責任に関わるものではないと判断された。
〈結果〉
 患者側へ改めて医学的説明を行った結果、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決とみなされた。

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