MRSA感染の裁判和解
(70歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
当該患者は両大腿膝窩動脈バイパス術施行後に退院したが、右膝部創よりMRSAが確認され再入院となった。人工血管を温存するために局所療法(洗浄)、デブリードメントで対応。抗生剤は長期投与による腎不全を考慮して使用を控えた。しかし、その後の経過が良好ではなく、家族の希望通りに人工血管を切断。虚血を防ぐために、より遠位に新たなバイパスを作成した。ところが感染は拡大し、発熱、右足の痛みが発症したため、人工血管を全て抜去した。その後、虚血肢となり右下肢を切断したが、播種性血管内凝固症候群が原因と推測される脳梗塞により失明となった。その3カ月後に発熱、抗生剤投与を開始して解熱したが、患者は死亡した。
患者側は、MRSA感染に対してバンコマイシン投与等、適切な検査・処置を行う義務を怠ったとして、証拠保全を経た後に訴訟を申し立てた。
医療機関側としては、効果が期待できないにしてもバンコマイシンを投与した方が良かった。また、救命を最優先し、早期に救肢を諦めるべきであったと反省点をあげたが、医療過誤の有無については、当初判断ができなかった。
紛争発生から解決まで約4年5カ月間要した。
〈問題点〉
医療機関側の見解は結果論であり、その内容からだけでは医療過誤が明らかと判断するまでには至らなかった。しかしながら、MRSAに感染していたにもかかわらず新たなバイパス手術をしたことは問題点として挙げられる。医療機関側は、過去の成功事例を参考に、旧バイパスの一部を残し、新たなバイパスをそこから取り付ける方法を選択したが、患者側は早急に人工血管を全て除去すべきだったと主張した。ただし、その時点で患者の生命に危険があると医療機関側は認識できず、結果論だと反論することも可能と思われた。医療機関側の主張通り、早期に救肢を諦めていれば救命できたことは事実であろうが、その時点で今回の事態を予見することができなかったことから医療過誤とは判断できなかった。ただし、裁判で、患者側から鑑定書が提出され、今回の事故は結果論であり、賠償責任が全くないとは主張できなくなった。
〈結果〉
裁判所からの和解勧告を受け和解に至った。