続・記者の視点 76  PDF

日本は単一の独立国家だったか
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

 バルセロナを中心とするカタルーニャ自治州の議会が独立宣言を決議し、スペインの中央政府は自治権の一部停止を決めた。問題が平和的に解決するのか、危ぶまれる。
 イラクやシリアでは、独立国家をめざすクルド人の動きが強まっている。クルド人はトルコ、イランを含めて3000万人近くいる。
 どこまでが同じ民族で、どこから別の民族か。あるいは一つの民族なら一つの国家であるべきか。なかなかややこしいテーマである。ヨーロッパ諸国が勝手に線引きして植民地支配した地域も多く、紛争の火種は世界中にある。
 さて日本はどうだろう。
 筆者は、ある大学でリテラシー(情報の読み方、文章の書き方)の授業を担当している。たとえば、一つの例として次の文を読んでもらう。
 <日本は、2000年近くにわたり、ひとつの独立国家であり続けた、世界でも珍しい国である>(ある個人ブログの記述から)
 おかしなところはないかと尋ねても、学生の手は挙がらない。何度も問うと「南北朝」「戦国時代」「米軍の占領」といった答えがポツポツ返ってくる。そういう部分もあるけれど、的は射ていない。
 国家を形成しなかった北方のアイヌは置くとしても、れっきとした独立国だった琉球王国の存在を、ほとんどの学生が認識していないのだ。
 沖縄の歴史をたどると、グスク時代と、三山の対立時代が合わせて二百数十年間。1429年ごろに琉球統一王朝が成立し、180年間にわたって交易などで繁栄した。
 1609年の薩摩の侵攻後の従属時代が270年間。ただし、この間も琉球王朝の体制は保たれており、中国にも朝貢を続け、米・仏・蘭と独自に条約を結んでいた。
 明治政府が王朝を滅ぼして沖縄県を置いた1879年の琉球処分から、1945年の沖縄戦終結まで66年間。米軍による統治が27年間。日本復帰(1972年)から現在まで45年余りである。
 琉球王国が450年間に及ぶのに比べ、日本の一部になった期間はずっと短い。
 普天間、辺野古、高江をはじめとする米軍基地問題、そして沖縄県と日本政府の関係を考えるときは、琉球王国を含めた長い歴史を踏まえないと、県民感情を見誤る。
 中国が軍事力を増強しているから南西方面の防衛が大事と言うのは、あくまでも日本本土からの視点だ。
 沖縄は単なる一地方とは言えない。日本政府が県民の意向を無視する政策を取り続けると、ヤマトによるウチナーの強権支配とみる民族的な感情が高まっていく。
 今のところ沖縄で独立志向は少数派だが、琉球民族独立総合研究学会をはじめ、独立をめざす組織はすでにある。
 憲法にも法律にも特定地域の日本離脱に関する規定はないものの、沖縄県が国連の非自治地域リストに申請して登録が認められれば、住民投票を実施して独立が可能とする見解がある。米軍基地をなくしてアジア各地との地の利を生かすほうが経済は発展するという意見もある。
 将来、琉球独立の動きが本格的になったら、あなたはどう考えるだろうか。

ページの先頭へ