宇田憲司(宇治久世)
果てしなき夢を求めて
本書は、四六判変形の単行本で、各頁の上半分には葉書き2分の1大に縮小された水彩画がカラー印刷され、下半分には約400字の説明文があり、詩情豊かな風景と、気の効いた随筆とが236頁にわたり続いていく。
巻頭には『上方芸能』発行人で立命館大学元教授の木津川計氏から「絵筆を携え、明日もまた旅に出よう」と献文があり、著者のようにシャレた文章を書きたければ、映画を見るべし、音楽にも親しむべしとも推奨されている。巻末には、絵画仲間で「師匠」と仰ぐ、元整形外科開業医で今や画家が本職の川浪進氏が出版祝賀文「不肖の師匠」を記し、著者が幼少時から如何に才能と環境に恵まれていたかを彷彿とさせている。本書の上梓はこの「師匠」の「死ぬまでに何か生きていた証を残しておく」ようにとの助言に始まり、全国医師協同組合連合会機関紙で季刊発行の「JMCニュース」に4~5点ずつ48回12年間にわたり発表されたスケッチ232枚がまとめられ、「恥の上書き」と謙遜の辞で締めくくっている。
古くは1998年5月2日の「夏の旅 長江」の作品から最新日付は11年5月5日の「少年の蒼い夏 海津の石積み」までを中心に、日付のない49点、ただし文面から退職後で13年の作品であろう9点をいれ合計236点となり4点多くなる。また、カバーにある静物画5点を加えると241点となり、本書で初掲載された9点がどれかを探すのも一興であろう。
実は、本院にも著者の原画作品が1点あり、リハビリテーションルームの壁面が「野尻湖」の風景で飾られている。本書の72頁、02年9月7日の作品であり、14年3月京都文化博物館で開催された個展で、気に入り入手したものである。野尻湖は、大学6年生の夏休み、20日間の北海道山歩きの帰りに立ち寄り、疲れを癒しに湖岸で1泊テントを張った思い出に懐かしく、持ち帰ることにした。自分としては、重くなくとも手が取られるカメラは持たず、瞼の奥に記憶するだけでよいと考え、旅先で写真の撮影はほとんどない。著者のように絵の才に恵まれておれば、旅をしながら途中ちょっと立ち止まってスケッチをして、その時の印象を例えば和歌・川柳・俳句など短文に記録して、10年20年倦むことなく続けられこのようにまとめておけば、いつの日か時々見直し有意義な人生だったと振り返ることも可能である。
自分はといえば、中学2年の写生の授業で、興聖寺は琴坂に座し竜宮造りの唐様山門を水彩に描いたその後、屋外で絵筆を持った記憶がない。今回、著者に刺激されたか、色鉛筆なら扱いやすかろうと12色の水彩色鉛筆を購入し、陶芸教室で造った茶碗を描いて水筆ペンでなぞるとこれはなかなかいけると思ったが、絵心には恵まれず他の原稿に追われるこの身では、楽々と継続し難い修業かなと悟らされた。
大森俊次著
「スケッチブックの向こうに 僕の旅エッセイ」
天保山ギャラリー監修・㈱つむぎ出版2014.1.25
初版第1刷発行2000円+税