政策解説 医療産業化念頭に置いた地域医療構想ガイドライン案出される
「地域医療連携推進法人」(仮称)は「地域医療構想」実現の要か
2015年4月以降に都道府県が策定する「地域医療構想」。その策定のためのガイドライン案を2月12日、厚労省は第8回地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会(座長・遠藤久夫学習院大学経済学部長)に提示した(図表1)。
ガイドライン案の位置づけ
ガイドライン案は、都道府県が地域医療構想を策定するための必要事項を整理したもの。とりまとめ後、厚労省が省令・告示・通知等の制定・改正を行い、都道府県がこれを参照して構想を策定する。地域医療構想は医療計画(京都府では保健医療計画)の「一部」であり、策定にあたっては「医師会等の診療又は調剤に関する学識経験者の団体」、また「都道府県医療審議会」や「保険者協議会」「市町村」の意見を聴くよう求める。また、地域医療構想は、「医療提供体制」のみならず「地域包括ケアシステム」構築も見据えるものと位置づけている。
構想区域は二次医療圏が原則
地域医療構想検討の具体的作業は「医療需要に対応する医療供給」を具体化する範囲=「構想区域」の設定から始まる。ガイドライン案は構想区域を「現行の二次医療圏」を原則とする一方、あらかじめ人口規模・患者の受療行動・疾病構造の変化など将来における要素を勘案して検討するよう求める。また、設定した構想区域が二次医療圏と異なる場合は、「二次医療圏を構想区域に」一致させることを適当とした。
医療需要推計は医療費総額管理システムとシンクロ
地域医療構想は構想区域単位で機能別に必要病床数を盛り込むこととされ、ガイドライン案はそのための医療需要推計の方法を述べる。この推計方法は官邸直轄の審議体である「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」とシンクロする形で議論が進んできた。同専門調査会がなぜ官邸直轄だったのかに注目したい。それは医療需要の推計法の開発が安倍政権肝いりの政策である都道府県単位の「医療費総額管理」システム構築を目指すものであるからに他ならない。骨太の方針2014(経済財政運営と改革の基本方針)には「平成27年の医療保険制度改正に向け、都道府県による地域医療構想と整合的な医療費の水準や医療の提供に関する目標が設定され、その実現のための取り組みが加速されるよう、医療費適正化計画の見直しを検討する」とある。このことから地域医療構想自体が将来に向かい、医療費総額管理の推進装置となるものと捉える必要がある。
医療需要の算出方法—DPCデータを軸に
ガイドライン案は医療需要について、厚労省が示す「2025年における医療需要」を「患者住所地を基にした基礎データ」を基に、都道府県が構想区域ごとに「医療機能」(高度急性期・急性期・回復期および慢性期)別に推計すると述べる。
慢性期を除く機能にかかる算出は、入院におけるDPCデータおよびNDB(レセプト情報・特定健診等データベース)を用いて、住所地別に患者を配分し、構想区域ごとの性年齢階級別の入院受療率を医療機能別に算定し、さらにこれに2025年度における性年齢階級別人口を乗ずることで導き出す。この際、各機能の需要算出に用いる考え方が「医療資源投入量」(患者に対して行われた医療行為を出来高点数で換算したもの。ただし、入院基本料部分は含まず)である(図表2)。
具体的には、入院から「医療資源投入量が落ち着くまでの段階」の患者数を「高度急性期」および「急性期」の患者数とする。
また高度急性期と急性期を区分する境界点を3000点(C1)に、また急性期と回復期の境界点を600点(C2)に、回復期と慢性期の境界点は225点を目安(C3)に設定する。なお、慢性期については、療養病床点数が包括払であり同様の方法で医療資源投入量を測ることはできない。そこで「在宅医療の充実等」を前提に、「療養病床の入院受療率を一定程度低下させ、それに相当する分の患者数として推計」する。そのため「在宅医療の整備を先行」させるとした。
こうした需要推計に基づき、都道府県は構想区域ごとに機能別必要病床数(供給見通し)を導き出す。その際、基礎となるデータが病床機能報告の内容である。都道府県は報告内容と供給見通しの乖離を埋めながら、ビジョンに書く病床数に地域の医療機関を収斂させることになるのである。
「地域性」「個別性」は考慮外
京都府内にも、医療機関数が集中する地域と、限られた拠点病院が開業等と連携し、圏域全体の医療を支えている地域がある。機能分化という考え方自体、医療資源が潤沢な地域(国のいう過剰な病床のある地域)でしか現実的に成り立たない。病院の在り方やその意義、求められる機能・役割は、「医療資源投入量」等という考え方だけで導き出せるものではない。こうした「地域性」や医療の「個別性」を無視する形で、機械的に医療機能を定義したり、必要量を定めたりすることへの地域の医療者の違和感は強い。
地域医療連携推進法人(仮称)(非営利HD型法人)も法案提出へ
一方で、地域医療構想に定める機能分化の実現手段として、「地域医療連携推進法人制度(仮称)」の創設を可能とする医療法改正案が今通常国会に提出される(図表3)。
去る15年2月9日、厚労省の医療法人の事業展開等に関する検討会は「地域医療連携推進法人(仮称)の創設及び医療法人制度の見直しについて」をとりまとめた。
とりまとめでは、新型法人の「事業地域範囲」を「地域医療構想区域」を基本に非営利新型法人が定め、都道府県知事が認可する。新型法人へ参加する法人は、事業地域範囲内における病院、診療所・介護老人保健施設を開設する複数の医療法人その他の非営利法人とする。非営利新型法人は、医療法人などによる横の連携を強化し、競争よりも協調の推進を目的とするため、複数の医療法人などにおける「統一的な連携推進方針(仮称)」の決定を、主な業務とすること等が確認された。
さらに、傘下法人間の医療機能分化を進めるのに有効である場合、医療計画における基準病床数の設定にかかわらず、「病床数の融通を認める」方向性も示す。この際、「地域医療連携推進協議会(仮称)」の協議を経る等の手続きの必要性が述べられている。この協議会は、地域医療構想ガイドラインのいう「地域医療構想調整会議」とは別物の巨大法人内部の審議体であり、首長・医師会長等の参加が想定される。しかし、仮に地域医療構想区域の医療をすべて巨大法人の「統一的な連携推進方針(仮称)」に基づく意思決定に委ねるとすれば、この協議会は事実上、病院間の機能分担や役割を決定する場所になる。
地域包括ケアシステムを利用したヘルスケア産業育成も絡む
傘下法人に営利法人は参加できないが、関連事業を行う株式会社への出資は(「株式保有割合を例えば100%に」すれば)認めるという。
その当該箇所の表記に注目したい。その出資について「関連事業を行う株式会社への出資について地域包括ケアを推進する」ためであることが条件に付されているのである。ここでなぜ唐突に「地域包括ケア」が出てくるのか。
地域包括ケア推進のための株式会社への出資との記述から連想せねばならないのは、経済産業省の「次世代ヘルスケア産業協議会」が6月にも策定する新たな成長戦略への反映を目指し、議論を活発化させていることである。
そこでは地域におけるヘルスケア産業を創出し、「地域包括ケアシステムと連携したビジネス」を展開すること。そのための地域の医療・介護関係者を「糾合」した「地域版協議会」の創設が打ち出されているのだ。
新型法人構想には、地域医療構想による提供体制からの医療費抑制に加え、地域包括ケアを利用した営利事業展開というねらいが明確に示されているのである。
医療者の選択すべき道は
地域の医療者は、成長戦略と絡み合った医療提供体制改革実現という命題の下に統合管理され動員されようとしている。その中核に、医療費総額管理と親和性がある地域医療構想があり、その具体化策としての新型法人がある。このような状況下にあって、地域の医療者は患者の生命・健康を守る自らの役割にこだわり、改革の主戦場となる地方自治体との共同を強め、国の政策への対抗を強めていく。それ以外に選択すべき道はない。