大江山/谷口 謙(北丹)
幼時のとき
服装は着物に白いエプロンのような
前垂れを付けていた
屋外の道路
立って南方を見やると
いつも はるか大江山がそびえていた
いや 晴天の日だけだったかもしれない
うっすら頭を出していた
ぼくは急いで帰り
お母ちゃん 大江山が見えとるで
幼いぼくの丹後弁
某日
めったにないことだが
タクシーが走って来た
ぼくが家に帰ろうとしたその時
車は急停車をした
ぼくの家の玄関に三人の男が入り
どなりつけた
おまえところの子供 危ないだないかー
ちょっとのことでひかれなんだが
阿呆
よう気をつけい
ぼくは母の背なかにかくれた
お母ちゃん
の声も出なかった
母は落ちついて一言も発言しなかった
ぼくを叱りもしなかった
ただ にこにこ笑っていた
拍子ぬけをしたのだろう
男たちは口々に罵声を残して去って行った
あの時
とは考えないことにしている
母は無上の味方だった
※
大宮第一小学校に通ずる大きな陸橋
ときおり生徒の体格検査に通う
Y町長のとき
四小学校を合併して発足の計画
反対 賛成
いろいろないきさつのあと
学校は新築された
何回か通り過ぎた陸橋
つい最近見つけた
学校への向って右 南方
とがった山とへこんだ台地
子供の頃 見つけた山と
それは少し離れた山塊だった
だが僅かかすんだ色調は
幼児の記憶と全く変りなかった
いま ぼくは母の没年に近く
山は同じ色あいで立っている