私の思い出 大切なひとをくも膜下出血で亡くしました 荻野 篤彦(伏見)  PDF

 奈良で皮膚科を開業している53歳の女医が2年前に突然、脳動脈瘤破裂のくも膜下出血で急死しました。診療所の2階で寝泊まりしていたようで、激しい頭痛に襲われたのか、枕元には多数の鎮痛剤が散乱していたようです。朝になっても2階から降りてこないので、出勤してきた従業員が2階に上がってみて息絶えているのを見つけたと言います。頭痛はかなり続いていたようですが、発作前には脳内出血するような前兆や既往歴はなかったようです。
 同じように私の実母(43歳)も脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血で亡くしました。戦後2年目の昭和22年3月30日のまだ寒さの残る午前中、産後18日目に福井市内の近くの小川にオムツを洗濯するために出かけて行きました。6歳になっていた私は、4月から小学校に入ることを楽しみに、買ったばかりのランドセルから教科書を出して熱心に読みふけっていました。その時突然、母が蒼白な顔で頭が痛いと言って家にかけ戻ってきて、私が入っているコタツに入ると、前屈みになって体を大きく震わせました。私はびっくりして薬店の店先にいる父を大声で呼ぶと、すぐに跳んできて母を抱き起こしましたが、母の顔色から血の気がなくなり、父の腕の中でぐったりして名前を呼んでも答えませんでした。私は泣きながらかかりつけの青木先生を呼びに行くと、私と一緒に駆けつけてくれて口髭を震わせながら「駄目だ、残念ながら」と言ってゆっくり聴診器を外しました。
 くも膜下出血は突然の今までに経験したことのない激しい頭痛に襲われるのが特徴で、約15%の人は病院に来る前に死亡すると言われています。脳ドックの普及で非破裂動脈瘤が診断されるようになり、積極的に手術する方向のようですが、ほとんど前兆らしいものがないので、残念ながら予防的な治療に向かう人はあまりいないのが現状のようです。

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