エッセイ お酒とわたし 山本 昭郎(下京西部)  PDF

 古来「酒は百薬の長」と言われ、人生の友、快楽やコミュニケーション・ツールとして人間社会に大いに役立ってきました。反面「アルコール依存症」で本人や家族に悲劇ももたらしてきました。お酒に縁のない人たちもいて、私もその1人です。お酒を飲むと、すぐに顔面紅潮、熱感、鼻閉、頭重・頭痛、動悸など(フラッシング)が起きて、その場にいるのが苦しくなります。
 若い時はアルコールに強いのか弱いのか分からず、無理して新・忘年会などで飲んでみました。しかし何度飲んでも、フラッシングは起きるし、しばらくすると悪心・嘔吐が起きます。翌日は二日酔いです。ある年、初詣に出かけ甘酒を飲んだところ、やっぱりフラッシングが起きて、一緒にいた妻に「何でそんなにアルコールに弱いの」と笑われました。それ以降、お酒の類はほとんど口にしなくなりました。
 アルコールは体内に摂取されると胃では約20%、小腸で約80%が速やかに吸収され、肝臓で代謝されます。アルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドになり、次いでアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸になります。酢酸は筋肉などの肝臓外の組織で炭酸ガスと水に代謝されます。ALDHのうちALDH2と呼ばれる酵素には、東アジア人に多い遺伝子多型で、酵素活性がゼロか弱い人が大勢いるとされています。このALDH2欠損型の人は、コップ1杯のビールで顔が赤くなるフラッシングの反応が起こり、比較的少量で二日酔いを起こします。両親からの遺伝子が2本とも欠損型(ホモ欠損型)の人は、酵素活性がゼロで酒が飲めない下戸の体質です。1本だけの欠損型(ヘテロ欠損型)では、フラッシング反応が弱い人や飲んで鍛えているうちに耐性ができて飲めるようになる人がいます。このALDH2欠損型は2000~3000年前から漢民族を介して東アジアに拡散したとされています。縄文人と弥生人の二重構造がある日本では、大陸からの移民と混血の歴史を反映し、ALDH2欠損型の人の割合は沖縄・九州南部・東北地方では30%以下と少なく、九州北部や京都・大阪・愛知では50%前後という地域差が見られます(久里浜医療センター・横山顯氏)。小生は遺伝的に飲めない体質なのです。
 飲めないために、これまでバーやクラブなどの盛り場、はしご飲みにもほとんど縁なく、飲める人から見たら寂しい人生を送ってきました。しかし、酒の上での失敗談はほとんどありません。アルコール性の脳萎縮も心配しなくてよさそうです。それでもせめてお正月には、飲める人の“ほろ酔い気分”というものを一度は味わってみたいなと思っていますが、私にとって叶わぬ夢です。

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