鈍考急考 20 原 昌平 (ジャーナリスト)  PDF

外国人への「おもてなし」の実態

 コロナ感染が増えても、ワクチンが足りなくても、巨大な国際イベントはとにかく開催するようだ。世界各地から選手、関係者、報道陣がやってくる。
 東京五輪の宣伝文句は「おもてなし」だった。だが、この国はふだん、海外から来た人々にどんな待遇を提供しているだろうか。
 中長期の在留外国人と特別永住者は2020年末で計288万人(中国77万人、ベトナム44万人、韓国42万人の順)。コロナ禍で微減したものの、人口の2・3%を占めている。
 その中には底辺の暮らしをよぎなくされている人々も多い。とりわけ技能実習生はしばしば、劣悪な労働条件や日常生活の不当な制約に苦しんでいる。
 母国での迫害を恐れて難民申請する人々もいる。だが難民認定率は2020年で1・2%。欧米と違って針の穴を通すほど難しい。
 在留許可が出ない人やオーバーステイ、資格外活動が見つかった人は、裁判所の手続きを経ることなく入管施設へ収容される。強制退去までという建前だが、収容期間に上限はない。
 収容施設から仮放免された場合も就労は許されず、生活や医療の手だては何も講じられない。
 外国人に関する行政の特徴は、出入国在留管理庁の裁量の幅が、他の分野に比べて極端に大きいことだ。
 上陸許可、在留資格の認定に一定の基準はあるものの、具体的な判断は当局の胸ひとつ。特別審理官、法務大臣への異議申し立てはできるが、行政不服審査法に基づく制度ではない。
 難民の不認定だけは行政不服審査請求ができる。しかし、その大半で、口頭意見陳述の機会を「本人が放棄した」などとして省いたまま裁決が行われている。
 行政訴訟を起こしても裁判所は、よほどのケースでないと、行政の裁量範囲内として逃げてしまう。
 根底にあるのは、外国人に入国・在留の権利はなく、認めるかどうかは国家の自由裁量という考え方。外国人はウソをついて不正をするのではないかと常に疑いの目で見るよう、入管職員は教えられるという。
 収容施設の人権状況はたびたび問題になり、国連機関の勧告も受けてきた。
 今年3月には名古屋入管に収容中のスリランカ人女性が適切な医療を受けられずに死亡した。動画記録があるのに遺族にも国会議員にも見せないのは異様だ。
 オーバーステイや資格外活動はルール違反だとしても、それほど重大な行為だろうか。法務省・入管は、違反者は煮るなり焼くなり好きにしてよいという感覚なのか。アジア、アフリカ、中南米の人々への差別意識もあるのではないか。
 強制収容には司法審査を組み込むこと、第三者機関を設け、苦情の受け付けや施設への立入調査を行うことが最低限、必要だろう。
 五輪で海外メディアが来るなら、外国人が日本でどのように扱われているか、取材してもらいたい。

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