エッセイ ピンクレイク ―水彩の抽象画 石原 由理(宇治久世)  PDF

 水色はさまざま、以前に朱色の湖を見たことから、湖の色が気になり始めた。
 今回、ピンク色の湖を求めて、オーストラリアのパースへ行った。世界にピンク色の湖は、数カ所知られている。その中の一つが、カルバリー国立公園に行く途中にあるピンクレイク。パースから車で平原の中走ること2時間ほどのところ、突然現れたピンク色。はっとするほどに鮮やかな、不透明な湖面、本当にピンクなのだ。碧色や青色の透明度を感じる色ではなく、不透明水彩絵の具で描いたようなピンク、光の加減で紫がかったり橙がかったり変化する。水際まで近づくと澄んでいるが、不思議な水色、岸辺の土はオレンジに近い。近づくと吸い込まれそうな静かな湖面は水鳥の姿もなく、波立つ様子はない。時折、風で揺れる。
 ピンク色という言葉から受ける感覚がここでは完全に変わり、柔らかさはあまりなくむしろ緊張感がある。湖の水は何か硬い面のようにも感じ、湖面を歩いていけるような気がした。この湖は凍るのだろうか。氷盤になったらピンク色のスケートリンクができるのかもしれない、など想像してみる。
 向こう岸までピンク、そして空の青、遠近感がなくなったような色彩の世界は抽象画のようだ。ピンク色になる原因はプランクトンによる、カロチノイドの色による、など色々あるが、実際は未解明だという。不思議な湖、そこに立っていたら時間の経つのを忘れた。自然色と湖面の不透明色はかけ離れているようだが、間違いなく自然の色なのだ。
 辺りは一本の道路と平原、時々人が手を入れた畑がある。オーストラリアの人たちにとって自然とは全く手つかずの森、草原や野生種の草花であり、人が手を加えた畑や公園は緑豊かであっても人工的であり自然と区別するようだ。大陸固有の野生植物の生態系を守ろうとする気持ちも強いようだ。この湖がこのまま変わらずであってほしい。

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