私の趣味 或る列車と私 村上 匡孝(綴喜)  PDF

 吾輩は、或る列車で旅をした。節操はまだある。赤い絨毯は美女のお出迎え、美酒と美味に酔う体験。そこは木の荘厳と金箔の華やかさと緩やかな時間が共存した空間であった。
 「或る列車」は実在するJR九州のデザイン&ストーリー列車(D&S)です。クルーズトレイン「ななつ星」と並ぶ豪華な内装とサービスが垂涎のまと、予約が取れない一編成だけのD&S列車で豪華スイーツ列車として知られています。企画された日のみ不定期で、久大本線の日田と大分の間を運行しています。途中、鉄道遺産の機関区と蒸機がある豊後の森駅に停車して散策する時間以外はドアは開かず、車内でドリンクとスイーツでゆっくりする趣向です。限られたゲストだけで途中での乗降はできないミニクルーズトレインです。“キンキラキンにさりげなく”目立つ外観(写真)と美人アテンダントのおもてなし。内装は、日田杉の格子戸に長崎ビードロのステンドグラス、壁の装飾も洗面所の洗面器も有田焼。オール九州の贅と粋が凝縮されています。
 車内では有名な成沢シェフ(NARISAWA)のスイーツ中心の軽食がコースでサーブされます。飲み物はおかわりも追加のチョイスも自由(呑み放題)で、笑顔の気配りと目配りでついついメートルが上がります。私は一人用個室で、車窓の展望をアテに堪能しました。スパークリング、白、赤、ロゼと爽やかな葡萄酒の産地はオール九州。水は日田の天然水です。お皿、食器、箸、お盆もお弁当箱も九州の木地師の作品。一部混じる陶器もメイドイン九州。果物もすべて九州産。味も満足度と達成感を満たしてくれました。広大な九重山の車窓は身に余る光景でした。
 食事に支障がないようゆっくり走って滝や名所で停車する、ある秋の日の日田から大分へのスロートレインの旅でした。
 注:この話は酒飲みの筆者が大病に倒れる前の実体験である

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