新理事者随筆忘れ得ぬ症例 母のように見守ってくれた患者さん 曽我部 俊介(西京)  PDF

 医師になり12年が経ちました。2年間の初期研修の後、7年間消化器外科医として勤務し、3年前に京都に戻り医院を継承しました。
 忘れ得ぬ症例と言われ一番に思い出されるのは、出向先の病院で初めて腹会陰式直腸切断術を執刀させていただいた女性の患者さんです。
 初診時に直腸診で大きな腫瘤を触れたのを今でも鮮明に覚えています。手術説明の際にはセカンドオピニオンについてもお話ししましたが、「初めて話をした時から先生に手術してもらおうと決めていた」と仰って下さいました。
 手術は無事終わりましたが、術後は癒着性イレウス等で大変辛い思いをされました。ご自身がしんどい時も心配するこちらをむしろ気遣っていただき、夜遅くまで病院に残っていると「早く家帰りね」といつも声を掛けて下さいました。
 また、お世辞にも綺麗な形とは言えない人工肛門にも「きゅーちゃん」と名前を付け、「先生に作ってもらったから気に入ってるの」と嬉しそうに話して下さいました。
 退院後も、外来診察時には毎回趣味のテニス観戦に行ってこられた話をして下さいました。入院の際はちょうど私の妻が担当の看護師でしたので、手術から4年後肺転移で入院された時には夫婦でお見舞いに行きました。経鼻カヌラを付け体は一回り小さくなっておられましたが、以前と変わらぬ笑顔で私達を迎えて下さいました。
 最期は当時の上司から亡くなられたことを伝え聞きました。最後にお見舞いにうかがったことを大変喜んで下さっていたと聞き、涙が出そうでした。
 この患者さんのことを思い出す度、私は患者さん達にも育てられてきたんだと改めて感謝しています。毎日大勢の患者さんが外来に来られますが、感謝の心を忘れず診療を続けたいです。

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