机上の避難計画は命の軽視に  PDF

環境対策委で原発新規制基準を学習

 福島第一原発事故から7年。原子力規制委員会は、2013年に施行した新規制基準のもと、次々と原発再稼働を認可し続けている。18年7月3日に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」も、いまだに原子力を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発推進を推し進めることを明記した。
 協会の環境対策委員会は、こうした問題をあらためて体系的に学習しなおしたいと一般社団法人京都自治体問題研究所の副理事長であり事務局長の池田豊氏を講師に、会内で学習会を開催した。
 学習会は、7月15日に発刊された『原発事故―新規制基準と住民避難を考える』(自治体問題研究所刊)をテキストに連続3回で行う予定。9月21日に開催した第1回は、「避難計画と深層防護」について学習した。
 原発事故時の住民避難計画は新規制基準の対象となっていない。
 原発の安全を確保するために、異常発生の防止から原子力防災まで、多層に防護策を組み合わせることで防護策全体の信頼性と実効性を高める概念を深層防護という。この考えは、住民等と原発に働く労働者、環境を保護するためのものでもある。1996年にIAEA安全基準として制定され、以降深層防護に基づき対応することが国際的に共通の基準となっている。一方で、日本では福島第一原発事故が起きるまで規制基準には第3層までしか取り入れられてなかった。事故以降も、日本における深層防護の考え方はIAEA基準に依拠しているとしながら、第5層の防護レベルの対応を一般の自然・事故対策の一つとして位置づけ、自治体での「防災」対策として、原子力安全規制の重要課題としていない。
 国や原子力規制委員会は、原子力災害の特殊性は認めるものの、住民等の避難などは地方自治体の責任で避難計画を作成、実施したほうが効率的かつ実効的であるとしている。しかし、原子力災害の特殊性こそが、福島第一原発事故発生直後の自治体対応や、その後7年経過しても復興どころか復旧すらできない状況を生み出し、一自治体の責任と能力で住民を避難させることにどれほどの困難をもたらしたのかを示している。
 原子力災害は住民の命と健康を危険にさらし、日々の営みを奪い、地域社会を解体へと導き、自然・環境も破壊するという、大規模で幾世代にもわたる不可逆的破壊をもたらす特殊な災害だ。現在の原発再稼働の審査対象に避難計画が含まれていないことは大きな問題だが、このような大規模災害において、だれが避難計画を立てたとしても実効性をもったものが立案できるとは思えない。実効性のある避難計画が立てられず、特殊災害のリスクを負ってまで原発に頼る必要はないはずだ。

深層防護の考え方
第1層
異常発生の防止
異常運転や事故の防止

第2層
異常の拡大防止
異常運転の制御と故障の検知により事故に拡大するのを防止

第3層
事故影響の緩和
事故が発生した際に、シビアアクシデントへの進展を防ぎ、放射性物質を閉じ込める。炉心損傷を防ぐ。設計基準内への事故の制御

第4層
シビアアクシデント(重大事故)対応
事故の進展防止とシビアアクシデントによる影響緩和、放射性物質の放出低減を含むプラント状態の制御

第5層
原子力防災
放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和。オフサイト(原発周辺)の緊急時計画により被害を緩和

『原発事故-新規制基準と住民避難を考える』(一般社団法人京都自治体研究所刊)より引用

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