私のすすめる 小浜でひと休み  PDF

辻 俊明(西陣)

夜明けのコーヒーはいかがですか

 国道162号線は周山街道とも呼ばれ、京都市に始まり、京北、美山を経て福井県小浜市に至る。京都市から小浜へ行くには、国道367号線を通って滋賀県経由で行く方法もあるけれども、R162は山道が多く、あまり整備されていないので、昔のままのきれいな自然が残っていて、かつ通行量が少ないから、こっちのほうが運転していて気持ちが良い。日々の生活の中で、思いがけず時間に余裕ができたとき、気分転換を兼ねて海に行きたくなることがある。そんなときR162は、途中美しい風景を見せながら、私たちを日本海の青い海に連れて行ってくれる。
 この道を楽しむには、季節が夏なら平日の夜中の2時に京都市内を出発するのも面白い。市街地をすぎればすぐ山道になり、他の車はいなくなる。ヘッドライトを上げ、窓をフルオープンにして甘いラブソングを聴いていると、夏の夜風も甘くなる。このひと時を味わうために、ゆっくり走ろう。途中で鹿の家族に出会っても、驚かせないようにさっと通り過ぎることにする。オレンジのトンネルをいくつか抜けてゆくと、midnight drivingの気分はだんだん盛り上がってゆく。
 京北をすぎたあたりの平坦なところで車を降り、エンジンを止め、明かりを消すと、そこには星屑がこぼれそうな夜、どこか遠いところへ連れて行ってくれそうな星空の誘惑がある。ここでしばしの休憩の後、旅は続き、midnight drivingはtwilight drivingへと変わり、小浜市の海岸に到着するのはちょうどAM5:00。砂浜に寝そべってホットコーヒーを飲んでいると、海から太陽が昇るのが見えた。これはA cup of coffee on the beach at sunriseという名の贅沢品である。
 R162は、日常性に満ちた都会の生活から、たった3時間で、ささやかながら非日常へいざなってくれる。いつもの行きつけの喫茶店へ行くのもいいけれど、時には小浜の海辺でブルーマウンテンならぬブルーオーシャンコーヒーを飲むのもおすすめである。

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