福島第一原発 事故後の現場より 現在の課題 ③  PDF

京都大学医学研究科環境衛生学分野教授 小泉 昭夫

森林の汚染

 2011年7月に訪問した際に、線量計は、福島市内の市役所に近い旅館でも高い値0・2~0・3マイクロシーベルト(μSv)/時(年間では2・2ミリシーベルト(mSv)に相当)を表示し、伊達市では1・8μSv/時(年間では16mSv相当)を示し、飯舘や、玉野でも5μSv/時を超え、SPEEDI(注参照)の予測に一致し、原発から北東方向にかけて飛散している様子が確認された。
 驚いたことに、森林近くで突然大きくメータ10 μSv/時を超える事態に頻繁に遭遇した。特に、葛尾村の森林近くで測定した折に最高18・2μSv/時を記録し隠れたホットスポットがあることに気付いた。文献を調べると、チェルノブイリ原発事故でも、森林汚染が生じ、生態系での循環が生じることが分かった。11年9月にあらためて森林汚染に着目し調査を行い、福島原発事故でも同様に森林汚染が生じていることを確認した。この結果、森林生態系の頂点に位置するイノシシに、今後、放射性物質の生態濃縮が生じることが考えられた。
 また、森林汚染は経済的なダメージもある。福島県では、常磐炭鉱での木材の利用のため、森林資源は大切に維持されてきた。これらの杉、松などの木材への長期的な蓄積と安全性、および林業作業での安全性は林業にとって死活問題である。また、イノシシ、ヤマメ、キノコ、山菜などは、安全性が確保されるまで当面採取禁止が妥当と考えられ、観光業にとっても大打撃であった。
 (注) 原発事故が発生した場合、放出される放射性物質の飛散量を、気象条件を基に逐次的に予想するシステムのことで、System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information Network systemの略。財団法人日本原子力安全センターが、1979年の米国スリーマイル島原発事故を契機に設計を開始し、1980年代には基本システムが開発され、1985年には地方公共団体端末に接続された。原発の安全対策の一翼を担っていたが、実際には福島県では職員が不慣れなため利用されず、避難者は放散方向に逃げる結果となり福島県への批判があった。

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