私のペット 今度は音楽と違う話を  PDF

鞭 熙(舞鶴)

 ということで、我が家のペットです。我が家には猫が2匹、ジェニファーとレオがいます。今日は昨年冬に我が家の一員となった茶トラの雑種レオを紹介します。「猫語の教科書」には男性は女性と違ってちらりと親愛の情を見せたり、お世辞を使ったりして、コツさえつかめば籠絡するのは簡単であると書いてあります。そのうえ、茶トラの猫はとにかく甘え上手なのです。レオ君との昼寝は、私にとって午後の診療のための大切な活力の源になっています。
 この前の晩など私が居間のギャベに寝転がって18世紀末のフランス音楽を聞いていたら、レオ君がもごもご言いながら近寄ってきて、私の腕の上にどたっと横になってゴロゴロ言い始めました。まあこうなるとこれに抵抗できるわけがありません。幸せとは温かくて柔らかいことであり、それはどこまでいっても変わることはない(村上春樹)のですし、またたぶん根底に人は孤独の中で猫を必要とすることがある(猫語の教科書)のでしょう。
 猫は人間の言葉を解するだけでなくて、特別の猫(いや猫はすべて特別なんですが)が、人間の言葉を話すというのは猫好きにとって格別珍しい話ではありません。医師ともあろうものが、なんとアホな非科学的なことを言うものだとおっしゃるかもしれませんが、ここは猫好きとはみんなこんなものだと開き直らせていただきます。
 レオ君の前に14年間いたチビヘレンが死ぬしばらく前のことです。ある朝、私が診療の前に「どうだい、何かしてあげることはないかな」と何気なく聞いたところ、彼女ははっきりと「もういいわ。ありがとう」と言いました。驚きのあまり私は言葉を失いました。すると、なんと彼女は少し笑ってうなずいたではありませんか。泣きそうになりましたが、時間も迫っていたのでそのまま診療に入りました。しかし、その日の私に何かただならぬものを感じたのでしょう。昼になって看護師さんが「いったいどうしたんですか。何かあったんですか」と尋ねてきました。そこで私、「うん、確かにあった。何があったんだと思う?」。さて皆さん、その時彼女が何と言ったと思いますか。こう言ったのですよ、おずおずと。「昨日の晩、奥さんと大喧嘩したんじゃあないんですか」。
 これで、今日のお話はおしまいです。最後にあなたに猫を好きになっていただくための参考文献をいくつか。P.ギャリコ『猫語の教科書』(ちくま文庫)、村上春樹『ふわふわ』(講談社文庫)、石井桃子『山のトムさん』(福音館書店)、河合隼雄『猫だましい』(新潮社)、石牟礼道子『猫』(藤原書店)。

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