環境問題に取り組む医療者団体 みどりのドクターズ 寺本 敬一 医師 特集 気候危機を 知ってほしい  PDF

2030年までにCO2半減私たちが今日からできることインタビュアー 兵 佐和子 副理事長

近年、平均気温の上昇は„地球沸騰化"とも言われるように深刻な問題になっており、健康への影響が懸念される。しかし健康と命に関わる環境問題について、医療者側からの発信は依然として少ないのが実態だ。私たちにできることは何か。環境問題に取り組む医療者団体「みどりのドクターズ」の寺本敬一医師に聞いた。インタビュアーは兵佐和子副理事長。

兵 佐和子 副理事長
気候変動は命に直結する問題兵 佐和子 副理事長 はじめに「みどりのドクターズ」について教えて下さい。

寺本 敬一 医師
2022年に環境問題に関して何かできないかと医師が集まり任意団体を結成したことが始まりです。プラネタリーヘルス※の考えに共感し、今は北海道から九州まで全国で100人程の仲間で、毎月ミーティングを開き、日頃はSlack(コミュニケーションアプリ)で情報共有しています。医師の他、看護師や薬剤師、弁護士の方もおられます。「みどりのドクターズ」は気候変動は命に直結する問題と捉え、勉強会や情報発信など気候変動対策推進のために活動しています。


メンバーに入りたい時はどうしたらいいですか。

寺本
どなたでも入っていただけます。「みどりのドクターズ」のホームページなどからご連絡下さい。


寺本先生が環境問題に関心を持たれたきっかけは何ですか。

寺本
これまではニュースなどで聞く程度でしたが、自宅を新築した翌年にこの福知山で水害があり、自宅が床下浸水の被害を受けました。それから50年に一度と言われる水害が何年か続き、これが気候変動の影響かと受け止めました。その頃、テレビで気候変動に関する番組を見て「ドローダウン」という言葉を知りました。やれることを全てやれば温暖化は逆転できるという内容でした。『Regeneration リジェネレーション(再生)気候危機を今の世代で終わらせる』『DRAWDOWNドローダウン―地球温暖化を逆転させる100の方法』(ポール・ホーケン著)を読み、多岐にわたる環境問題を解決すれば、さまざまな社会問題も解決できることも知りました。


2 0 1 9 年にグレタ・トゥーンベリさんが国連の地球温暖化サミットで演説されたのは衝撃的なシーンでしたね。あの時は世界中が注目し、環境問題を考えるきっかけになりました。最近は科学的な情報、正しい情報を得るのが難しい時代です。

寺本
有名な研究所の先生でも気候変動はないという発言をされている方がいます。SNSでもそのような情報はたくさんありますね。環境省が『気候変動の科学』というサイトを作っていますので参考になると思います。
医療機関が法人として環境問題に取り組めていればいいのですが、勤務医の場合は取り組みが個人的になりがちで理解が広がらず孤立感が生まれることもあります。それを「みどりのドクターズ」で共有し、共感を広げることで前向きに取り組むことができています。

私たちの世代で止める

兵 「みどりのドクターズ」として、医療界では無駄な処方が二酸化炭素の排出につながること、定量噴霧式吸入器はCO²の数千倍の温室効果ガスである噴射剤が含まれていることなど発信されていますね。日常では資料を紙で印刷することが多く、デジタル化しても電力を使うことになります。どう折り合いをつけておられますか?

寺本
その辺りは割り切って目的別に考えます。デジタルでは頭に入ってこない場合があるので、必要な時は紙に印刷します。紙も雑紙としてリサイクルできますので。


数年前に保険医協会の総会で医療機関として環境問題に取り組めることはないかという問題提起がありました。寺本先生は日頃、工夫されていることはありますか?

寺本
必要なものは必要と考え、無駄なことをなくしていきたいと思っています。テナント開業の医療機関では難しいかもしれませんが、再生可能エネルギーに切り替えるのも一つの方法です。


残薬が医療費を圧迫しているという指摘があります。環境問題の面から言っても、無駄なことですので、処方する際は管理を徹底しなければいけないと考えています。当院は院内処方で、患者さんには再診の際は薬の袋と残薬を持って来てもらうように伝えています。以前、患者さんから、何で袋を持ってくる必要があるのかと聞かれたことがありました。定期の処方の際は十分に使用できるのでもったいないからですと答え、納得していただいたのですが…。お薬手帳を見ると、複数の医療機関を受診されていて、同じ薬が処方されている場合もあります。

寺本
薬袋の再利用は素晴らしい取り組みですね。残薬管理は看護師や薬剤師と連携して防いでいけることですね。

疾病予防と必要な医療


医療者が環境問題に意識を向ける意義は何だと考えられていますか。

寺本
患者さんを診る時はその方の背景も見ます。その究極に環境問題があると考えています。病気を治すためにも環境を良くしていかないといけないのです。


私は耳鼻咽喉科の学校医をしています。今年は暑かったのでプールや外遊びができなかったと聞きました。子どもの成長に運動は不可欠です。その世代への影響はどのように受け止めておられますか。

寺本
夏に外遊びができないのは、本当に深刻な問題です。ストレスや発育への影響はあると思います。だからこそ、私たちの世代の責任で地球温暖化を止めなければいけないのです。2030年までに二酸化炭素の量を半分にしなければ取り返しがつかないことになります。次の世代では間に合わないのです。


医療者が環境問題を取り組んでいく際に何か参考になるものはありますか。

寺本
日本プライマリ・ケア連合学会が2024年5月に「プライマリ・ケアにおける気候非常事態宣言」を出しました。学会のホームページで具体的なアクションプランも掲載していますので、できることから始めていただければいいと思います。無駄な検査をせず必要な治療をするのが基本です。外来よりも入院の方が温室効果ガスが増えるので、外来で治療できるものは外来で治療することも重要です。運動することは身体にもいいことですし、その結果、疾病予防につながり医療から排出する温室効果ガスの削減にもつながります。やれることは実はたくさんありますね。


プライマリ・ケア連合学会が環境問題に関する提言を出したのは学会として以前から問題意識を持たれていたからですか。

寺本
学会に所属している「みどりのドクターズ」のメンバーが働きかけました。2024年6月に浜松市で学術大会があり、学会の実行委員会とみどりのドクターズがその大会に向けて共同で提案し、パブリックコメントを受けて正式に発表しました。


かかりつけ医として、待ったなしという危機感から生まれたのですね。感激しました。
単回使用医療機器の使用にも問題意識を持たれています。手術キットには使わない器具もあり、もったいないですね。

寺本
医療界はプラスチックの使用がとても多い業界です。海外ではプラスチックの分別に取り組み、再利用を進めています。もっと業界で進んでいってほしいと思います。

今でないと間に合わない


今後の課題となっていることは何ですか。

寺本
多くの人が知らないことが問題だと思います。新内閣が誕生しましたが、気候変動の問題についてはほとんど触れられていません。日本はCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)に首相が参加していませんし、やる気が感じられません。マスコミの報道も少ないですね。地球温暖化を防ぐためには産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を1・5℃に抑えることが求められています。その閾値を超えると戻れなくなります。今から行動しないと間に合わないので、まず知ってほしいのです。ただ知っただけでは絶望しかないので、次にできることを実践していくことです。あとはやはり国のリーダーが変わらないと政策は変わらないので声を上げ続けなければいけないと思っています。


個人としても医療機関としても積極的に取り組まなければいけないですね。近い将来の目標はありますか。

寺本
地域で啓発活動を進めたいと思っています。今度、福知山市の環境団体が主催するイベントで情報提供する予定です。


一人ひとりの意識を高めていくことが必要ですね。本日はありがとうございました。(2025年10月31日)

一般社団法人みどりのドクターズ

気候変動をはじめ環境問題を考慮し、健康・医療のあり方を探求する医療従事者を中心とした団体。2022年5月に任意団体として結成し、2023年8月から一般社団法人として活動している。医療従事者が主体となり、気候変動対策を推進する日本初の団体として、社会に新たな価値を提供している。約100人の医師、薬剤師、看護師、医療系学生、ヘルスケア関連職種が集まる。
2025年度気候変動アクション環境大臣表彰(普及促進部門緩和適応分野)を受賞。

プライマリ・ケア従事者のための気候変動アクションリスト例

日本の温室効果ガス排出の約5%がヘルスケア領域に由来し、産業部門では第5位となっており、ヘルスケア領域からの排出量を減らすことが不可欠だ。ケア従事者と地域住民が連帯して緩和策に取り組むことができると、ヘルスケア領域のみならず、他の産業や家庭から排出される温室効果ガスも効果的に削減できる。

ページの先頭へ