新連載
「趣談」とは中国語で「面白い話」という意味です。漢方にまつわる面白い、でも役に立たないエッセイをお届けします。
今年も猛暑である。うちのような町医者にも熱中症の患者がちらほら来院する。そもそも自分で来られる程度なので基本的には軽症である。そんな時に重宝するのは白虎加か 人にんじんとう参湯である。補液を行った後に自宅で服用してもらうと翌朝にはすっきり治ることが多い。
さて、この白虎加人参湯の「白虎」であるが、東西南北の四方を守護する四神のうち西を守護する神獣である。
中国の西方と言えば非常に乾燥している。いわば砂漠の気候である。体内の水分不足や熱を治す薬に「白虎」の名が与えられたのはそういう由来がある。構成生薬の石膏が白いこともその理由の一つとされている。
漢方には小しょうせいりゅうとう青竜湯という薬もある。鼻炎やカゼの薬として使われる。
「青龍」は東を守護する神獣である。中国の東には海があるので多湿と言える。小青竜湯には鼻粘膜や気管の浮腫を取る作用があるのでこの名が与えられた。構成生薬の麻黄が青い(実際は緑色だが)のもその理由である。
では残りの二神、「朱雀」「玄武」はどうなったのか。現在日本で使用されているエキス剤にこの名はない。
朱雀湯は泄下・利水薬として存在したのだが、その毒性の強さから現在ではほぼ使用されることはなくなった。
「玄武」はというと、現在は「真しん武ぶ 湯とう」の名で存在している。冷えに伴う下痢、めまいの薬である。北の神獣である玄武にちなんで、寒冷に対応するこの薬に名付けられた。構成生薬の附子が黒い(「玄」は黒いという意味もある)こともその理由である。
ではなぜ「真武湯」という名に変わったのかというと、宋の皇帝の名、趙玄朗に配慮して「玄」の字が避けられたということだ。
薬の名付け方から見ても漢方は興味深い。四体の神獣の力を借りて、四季を上手に乗り切りたいものである。
たなか・ひろゆき
1998年ᅠ自治医科大学卒業
2007年ᅠ たなか内科クリニック開設
内科・漢方診療に従事。
訳書に「漢方百物語」「老中医」。