この動きは、単なる差別排外主義・ポピュリズムではなく、極右全体主義である。一時的な現象だろうと見くびっていたら、とんでもない事態になりかねない。
参院選で躍進したのは参政党と国民民主党だった。とりわけ驚かされたのは参政党の急伸。言っていることはデマと差別のオンパレードなのに、なぜ人気を集めたのか。
基本的には、イデオロギーより、方法論だと考える。
まず、ショート動画を中心に、ネット上の情報拡散技術を駆使した(ロシアの情報工作があったという見方もある)。物議をかもす発言も注目度を上げる手段になる。40代以下は新聞どころかテレビも見ない人が多い。ネットで接点ができたというだけで、政治の知識やリテラシー(批判的検討力)の乏しい無党派浮動層を取り込んだ。
もう一つは、キャッチコピー。「日本人ファースト」は外国人差別(国民民主の「現役世代重視」は高齢者軽視)になるが、受け手はそこまで読み解けない。不安をあおって議題(土俵)の設定に成功し、外国人が争点の一つのようになった。同時に、欧米以外の外国人を蔑視するネトウヨの浮動層を取り込んだ。
敵を設定して苦しみの原因をすり替える手法、声高に攻撃して喝采を得るやり方は、ナチスともトランプ米大統領とも欧州極右とも橋下時代の大阪維新とも似ている。人権を嫌い、気に入らないメディアや批判者を攻撃・弾圧・排除するのも似ている。
政策や発言は危険きわまりない。参政党の新憲法構想案には国民主権も人権も平等もなく、天皇中心の軍事指向。神谷宗幣代表は治安維持法肯定論や公務員の思想調査まで口にした。徴兵制と核武装を唱えた東京の候補者、批判者を「非国民」となじった神奈川の候補者も当選した。
延命医療の全額自己負担など医療費削減を掲げ、発達障害の存在を否定するなど病者、障害者、高齢者に冷たい。
ウケそうな題材を人気集めや観測気球で打ち出している面もあり、追及されるとすぐにごまかすが、コアには極右復古思想がある。
侮れないのは、参加型の仲間作りだ。ソフトな笑顔で反ワクチン、オーガニックをまとい、陰謀論を吹き込むカルト的手法。地方議員も増やしてきた。家父長主義・女性蔑視なのに女性の候補者を多数立てた。演説会は扇動と陶酔の雰囲気が漂う。狂信的な支持者が暴走すれば、ナチスのSA(突撃隊)のような恐怖をもたらしかねない。
今後、スキャンダルや矛盾は暴かれるだろう。人手不足を外国人労働者(大半は合法就労)に頼る事業者・経済界、訪日外国人でもっている観光業界とは利害が対立する。
だが昔も今も、民衆の多くの投票行動は、理性より接触頻度、ストーリー、情動、短いフレーズに左右される。政策を実直に訴えても届かない。
次の選挙では参政が第2党か第1党になり、自民党の極右派、日本保守党などとの連立政権ができるかもしれない。
どの政党を選ぶかは有権者の自由だが、その結果として言論の自由、政治的自由が奪われたら、元も子もない。
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