社保研講演要旨 日本の医療・介護費用は増額すべき  PDF

第677回社会保険研究会
講師:中央社会保険医療協議会入院・外来医療等の調査・評価分科会会長、九州大学名誉教授 尾形 裕也 氏

 協会は3月29日、「診療報酬改定の現状と課題:若干の私見」をテーマに社会保険研究会を開催した。講師は中央社会保険医療協議会入院・外来医療等の調査・評価分科会会長で九州大学名誉教授の尾形裕也氏。会場とウェブで68人が参加した。

 診療報酬は形式的には医療保障政策の一環だが、医療提供政策に大きな影響を与えている。
 診療報酬は確かに重要なものだが、それだけをにらんで経営するのは非常に危険だ。診療報酬は大臣告示であり、法令的に非常に低い位置付けとすることで、柔軟に変化させている。その変化に合わせていくだけでは改定の度に右往左往することになる。最も有利な点数を算定する必要はあるが、診療報酬に合わせて経営を考えるのは非常に危険である。診療報酬は変わっていくもの、変わるべきものと考えるべきだ。
 現在、診療報酬は三段階の改定プロセスで決定される。
 第一はマクロで、改定率を政府が予算編成のプロセスで決定する。第二はメゾで、基本方針を社会保障審議会の医療部会と医療保険部会で決定する。第三はミクロで、改定の具体的内容を中医協で決定する。
 近年の改定動向を見ると02年度、06年度改定を除き、本体はプラス改定が維持されているが、直近6回の改定では本体引き上げと薬価引き下げの合計がマイナスになっている。
 また、22年度改定では本体プラス0・43%のうちプラス0・2%を看護職員処遇改善評価料に、24年度改定は本体プラス0・88%のうち医療関係職種、40歳未満の勤務医師等の賃上げに計0・89%使うこととされた。
 本体の改定財源捻出のために薬価引き下げを繰り返すことで、日本の医薬品政策には歪みが生じており、限界にきている。財務・厚労両大臣合意というマクロを決めるべき政府の予算編成の中で内容に相当踏み込んでいるのも問題だ。さらに、資源配分と所得分配の問題として考えると、診療報酬は診療行為を評価するものであることから、賃上げと個別の診療報酬改定を対応させることも非常に問題だ。
 財源の問題抜きに診療報酬の大幅プラス改定はできないが、日本の医療・介護費用は増額すべきと考える。国際的に見ると、日本の医療・介護費用は決して高くない。むしろ高齢化が進む中でコントロールされている。そのような意見が一般国民の中から出てこないことを憂慮する。
 医療・介護費用を増やすためには増税や保険料の引き上げ以外はないというのが私の信念である。

講師の尾形氏

研究会の模様は協会ホームページで配信中

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