表題の言葉は「“隠された被ばく者”ビキニ事件から70年」(「クローズアップ現代」NHK7月17日放送)に出演した吉永小百合さんが思いを述べた言葉だ。紹介された内容は次のようなものだ。
1954年にアメリカが太平洋のビキニ環礁で行った水爆実験で第五福竜丸が被ばくしたことはよく知られている。実際には992隻に上る漁船に対して政府が被ばくしたとして魚の廃棄を命じた。その後の調査で近くの海域にいた船舶の乗組員の60人近くががんや白血病で亡くなっている。ところが、第五福竜丸以外の漁船員の健康被害はなかったことにされてきた。日米両政府により政治決着が図られたのである。そこでは戦前、731部隊石井機関で研究した原爆症調査研究協議会の医学者が関与していた。当局の記録が発見され裁判で争われている。
忘れてしまうとか、なかったことにしてしまってはいけない。被害を受けた方たちの言葉をしっかり私たちが受け止めなければという吉永氏の言葉をあらためてかみしめたい。
新型コロナを経る中で保険医協会が関連する二つの出版を行った。「なかったことにしてはいけない」との思いからの発信である。
一つは会員の新型コロナ体験記『コロナ禍の医師たち―記憶と記録がこれからの感染症対策の出発点に』である。会員から寄せられた現場での奮闘を収載した。歴史的な感染症に際して京都の開業医や医療機関がどのように苦闘したかの記録である。財務省は、開業医が恣意的にコロナ診療を忌避した一方で、不当な利益を上げているとキャンペーンを展開している。医療者と国民を分断して診療報酬改定が強行された。新たな医療費抑制、医療提供体制再編政策が現在進行中である。開業医や医療機関が新型コロナに立ち向かったことを「なかったことにしてはいけない」という反証である。
もう一つは高齢者や障害者の人たちの新型コロナ「留め置き死」の出版『コロナ「留め置き死」―医療を受けられなかった人たち』である。介護施設や保健所の方々との共同発信である。会員からの訴えを受けて、協会はこの問題に早くから取り組んできた。協会の要請を受けて、京都府には問題意識が見られるが十分とは言えない。多くの都道府県の「留め置き死」の実態は不明なままである。新型コロナで医療を受けることができずに命を落とした人を「なかったことにしてはいけない」と考える。
新型コロナ感染が第11波を迎えている中、私たちは医療者として府民の医療を守るために第一線で協力して診療に当たる決意である。シンポジウムなどを計画し行政や議会にもしっかり働きかけていきたい。
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