そこのところが知りたかった!医療安全Q&A 弁護士が対応方法をお答えします  PDF

あやめ法律事務所 福山 勝紀?弁護士

 日々、会員から寄せられる医療安全に関するお問い合わせの中で、特に対応に苦慮されている事案を厳選し、Q&A形式で顧問弁護士にお答えいただきました(隔号掲載で全10回シリーズ予定)。ぜひご参考下さい。

 Q、「裁判所」から「文書送付嘱託書」が送られてきました。カルテなどの提出を求められていますが、どのように対応すれば良いですか。同様に警察から「捜査関係事項照会書」が送られてきた場合の対応や注意点を教えて下さい。
 A、前提として、個人情報保護法では、本人の同意が得られた場合や「法令に基づく場合」※等には、個人情報を開示することが許されています。
 患者本人が開示を求めてくる場合や患者本人の同意書を持ち合わせている場合には、個人情報保護法に基づいて、原則、開示しなければなりません。しかし、個人情報を第三者に提供する際に、患者本人の同意書がない時の手続について、今回は回答します。
 ※「法令に基づく場合」には、事前に本人の同意を得ることなく個人情報を第三者に提供してよいとされています(個人情報保護法第16条3項1号)。

■文書送付嘱託
 大阪高裁判決において、「裁判所の文書送付嘱託があった場合も、公益に基づき特に定められた法令の規定に基づく嘱託に応ずるのであるから、同項に定める法令に基づく場合に当たる」と示されており、「法令に基づく場合」に該当します。仮に、嘱託に応じなかった(すなわち、提出しなかった)としても、特に罰則はありません。しかしながら、嘱託に応じない場合には、文書提出命令というさらに強い方法で開示を求められることもあり、この命令に応じなければ20万円の過料を命じられることがあります。また、文書送付嘱託に応じなかったということで損害賠償を求められる可能性もありえますので、開示に応じる方が賢明かと思います。なお、開示に応じる場合はトラブル回避のため、裁判所に本人の同意書を求める方がより良いかと思います。

■捜査関係事項照会書
 捜査関係事項照会書は刑事訴訟法197条2項に根拠がありますが、厚生労働省が作成した「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」には、「法令に基づく場合」として、刑事訴訟法197条2項を挙げていますので、原則としては、本人の同意書がなく回答することに問題はありません。しかし、トラブル回避のため警察に本人の同意書を求める方が適切です。また、回答を拒否したことで罰則はありませんが、家宅捜索に発展することもありえますので、開示に応じる方が賢明かと思います。
 最後に、仮に患者の同意もなく照会された内容の範囲を超えて回答した場合には損害賠償を求められるケースもありますので、照会に応じる際には、それぞれの照会書等で求められていることにのみ回答するように心がけて下さい。

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