協会は5月22日、近畿大学病院安全管理部教授、近畿大学医学部血液・膠原病内科教授の辰巳陽一氏を講師に迎え、医療安全講習会「医療施設における転倒・転落の“今”をもう一度考える」をWEBで開催した。今回のテーマである医療機関での転倒・転落対策は全国的にも関心が高いことから、全国の保険医協会・医会の会員医療機関にも参加を募り540人が参加した。
辰巳氏はまず転倒・転落の定義について説明した後、一般的に転倒・転落による死亡者は80歳以上の割合が高く、死亡事故のうち1割は医療機関で起こっているというデータを示した上で、患者の年齢が80歳以上であることは転倒・転落のハイリスク要因であると注意を促した。次に、転倒・転落事故は、患者の病態によるものや服用する薬剤の副作用、加齢、転倒の既往といった患者側の要因によって起こることが多いと解説。特に睡眠薬は、服用する時間が適切でなかったり、連日服用すると副作用から転倒・転落の発生数が多い傾向にあるため、高齢者には依存性が高く副作用の強い「ベンゾジアゼピン系」の処方を避け、依存性が低く副作用も少ない「非ベンゾジアゼピン系」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」の処方を推奨した。また、入院時に患者・患者家族に、アセスメントシートを用いてリスクについて十分認識してもらい、医療施設での対策やケアには限界があると理解してもらうことが重要である。患者・患者家族を含めた多職種チームをつくって対策を講じることで、事故を減少させることができたり、仮に事故が起きたとしても不要な医事紛争や訴訟へ進展することが抑制できると述べた。
辰巳氏は講習会全体を通して、「転倒・転落事故は、主に患者側要因で発生し医療者側だけでは管理できない要因もあるため、事故がゼロになることはない」と強調し、しかし可能な限りゼロに近づける努力が必要であると締めくくった。
質疑応答では、参加者から具体的な事例の対応方法等について質問が多数あり、全国の医療機関でも転倒・転落事故の対策に苦慮されている様子が窺い知れた。
当講習会の模様は期間限定で協会ホームページに掲載を予定している。ぜひご覧いただき、医療安全研修にご活用いただきたい。
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