丹後半島 心の原風景 第6話  PDF

辻 俊明(西陣)

エメラルドのような経ヶ岬灯台レンズ

 年に一、二度、春秋の日曜日に経ヶ岬灯台は一般公開される。ここは舞鶴海上保安部の管轄であり海上保安庁の職員が内部を案内してくれる。最寄りの駐車場には近所のボランティアによる屋台が出店し、普段数台しか停まっていない駐車場は、この日だけは人と車であふれる。
 近隣や京阪神から多くの人がやって来る。マニアはもっと遠くからでも来る。最近は女性にも人気があるようで、大きなカメラを首から下げながら一人で来ている人もいた。
 灯台の建物に入り、薄暗い中20段くらいのほぼ垂直なハシゴを5~6メートル登れば、そこは展望デッキ。高齢者と小学生以下はお断りとなっていたが、80歳くらいの高齢者でもなんなく登っていた。駐車場からここまで山道を15分歩かなければならないので、ここへ到着できる人は大丈夫ということであろう。保安官もしっかり見守ってくれる。
 ライトハウスには、国内最大級のレンズが収まっている。第1等フレネルレンズ(高さ2・8メートル、台とレンズあわせて5トン)で、類似のものは全国でも5カ所にしか残っていないという逸品である。フレネルレンズは、同心円が何重にも重なった構造をしている。晴れた日に遠くから灯台を見れば、レンズは透明な薄みどり色の物体となり、ガラス窓で覆われているから、ショーケースに飾ってあるエメラルドあるいはペリドット(8月の誕生石)のように見える。このジュエルのような物を一度間近で見てみたいと以前から思っていたところだった。デッキからは目前に見ることができた。巨大なレンズ、アナログ感が漂うが技術の粋を集めてあるのだろう、埃ひとつなく透明度100パーセントで大切に管理されていることが伝わった。レンズの奥には光源ランプ(メタルハライドランプ、250W)も見えた。ランプは高さ15センチほどの色なし透明で、想像していたのよりはるかに小さい。それでも光達距離は40キロメートル。これらは灯台の中で最も大切な部分であり、人でいえば心臓、キラキラの瞳あるいはピュアなハートに相当する。
 一般公開の日は、多くのボランティアの方が飲み物提供、道案内、駐車場整理をしてくれた。また、灯台内外では、何人もの海上保安官が制服姿で誘導してくれた。見学客は気楽に観光気分でやってくるが、これらの方々は休日返上のお勤めであり、見学が終わったら彼らに「今日は大変お世話になりました、ありがとうございます」と伝えたい。

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