読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
診療所にもソーシャルワーカーを
いきなり宣伝になって恐縮だが、本を出版した。中公新書ラクレ『医療費で損しない46の方法』(税別1000円)という実用書である。
病気やけがをした人が経済的負担を軽くする方法、公的給付を得る方法を中心に、患者と家族に役立つ社会保障活用術を幅広く紹介した。
たとえば、お金に困っている人が医療を受けるにはどんな方法があるか。生活保護だけでなく、無料低額診療や国民健康保険法44条による自己負担の減免もありうる。
高額療養費制度はもちろん、差額ベッドなど保険外費用の扱い、医薬品副作用被害救済制度、産科医療補償制度、アスベスト被害救済制度なども頭に入れておきたい。
障害年金、障害者手帳、自立支援医療、難病医療、小児慢性特定疾病といった障害や難病関連の制度も大切だ。
働き手なら労災保険、傷病手当金、出産手当金、育児休業給付金、介護休業給付金などが使えると、支えになる。
意外に重要なのは税金だ。医療費控除や障害者控除を活用すれば課税対象所得が下がる。障害認定を受ければ住民税の課税最低限が変わる。このごろは医療・介護・福祉・教育などで所得階層によって自己負担が変わる制度が増えたので、意味は大きい。
社会保障制度は多岐にわたり、たいへん複雑だ。しかも自分から手続きしないと適用されない「申請主義」が大半で、制度を知らないと損をする。実際、知らない人がけっこう多いので、専門知識を持つ人のサポートがほしい。
ほとんどの病院は医療福祉相談室を設け、ソーシャルワーカーが相談支援を担当している。病院の場合、退院支援などにあたる社会福祉士や精神保健福祉士の配置が診療報酬上、評価される。
診療所はどうか。ソーシャルワーカーがいるのは、大規模な診療所か、一部の精神科診療所ぐらいだろう。
診療所の場合、デイケアなどを除いてソーシャルワーカーを配置しても、現状では診療点数にならない。
しかし経済面を含めた生活支援は、治療や療養がうまくいくかどうかに大きく影響する。福祉の視点が欠かせない課題は多い。地域の関係機関と連携する機会も増えた。診療所にもソーシャルワーク機能が必要ではなかろうか。
人を新たに雇うのが難しければ、事務職員や看護職員が通信教育を受けて社会福祉士、精神保健福祉士の資格を取るのを援助してはどうか。
相談援助の実務経験のない人は1か月ほどの実習が必要だが、学費は雇用保険の専門実践教育訓練給付金を利用すれば、7割が戻る。
スタッフのキャリア形成と意欲の向上、そして医療機関としての信頼度や評価の向上にも役立つはずだ。