新理事随筆・忘れ得ぬ症例 日々思うこと  PDF

兵 佐和子(下京西部)

 私は、大学病院でアレルギー外来を担当し、喘息と好酸球性副鼻腔炎の研究を行っていました。その経験から免疫・アレルギーの分野に興味を持ち、開業医となってからも、アレルギー疾患の発症予防や早期介入をどのようにすれば良いか考えて診療しています。
 アレルギー性鼻炎の有病率は約40%で特に花粉症は国民の4分の1が罹患しているとも言われています。花粉症は飛散量に応じて症状が悪化するため、開業以来、診療所にダーラム型花粉捕集器を設置し、毎年1月下旬から5月上旬まで花粉飛散数を測定しています。ダーラム法は、スライドグラスにワセリンを塗布したものを屋外に24時間放置し、その上に落下した花粉を顕微鏡で計測する方法です。最大飛散日はいつ頃か、どのくらいで花粉が飛び終わりそうか、と考えながら花粉の飛散数を数えています。
 今年の春は、予想に反してスギ花粉の飛散数が少なく、4月に苦しくなって受診された方を多く診ました。症状が出て市販薬を使用しても効かない、というのが理由です。スイッチOTCを薬局で購入できるようになり、ニュースでその年の飛散予想や毎日の飛散予測を手軽に知ることができるようになりました。もちろん多くの方は、それらを十分活用し対策を取っておられますが、「我慢すればなんとかなる」からか、花粉症であってもこれらの情報に無関心な方がいらっしゃるのも事実です。
 症状の重症度にかかわらずアレルギーの治療には、抗原回避が必要です。患者さんに診察室のカレンダーに記載した花粉飛散数を見せて、辛かった日と飛散数との関連を認識していただくようにしています。
 そして、来シーズンに向けて症状を緩和させるためには抗原回避が重要であり、舌下免疫療法の提案や、初期治療の説明を行っています。
 これからの医療は発症予防や、慢性疾患から合併症が生じないように予防することが大切だと思います。忙しい世の中で、「今だけよければいい」という患者さんに将来の合併症予防や再発予防の説明をしても疎まれますが、専門家として発信していかなければならないと思っています。

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