新理事随筆・忘れ得ぬ症例 専門外にもアンテナをモットーに  PDF

茨木 和博(綴喜)

 医師になって38年になります。病院の勤務が18年。開業して20年が経過しました。病院勤務時代の忘れ得ぬ症例、開業してからの忘れ得ぬ症例、振り返ってみますといろんな症例がたくさんあります。
 医師免許を取って最初に勤めた病院が、救急は何でも診なければいけないというところでした。しかも、当直は外科系医師1人でやっておりました。
 そこではじめに経験した忘れ得ぬ症例は、まだ気管内挿管もできない初心者の頃、脳内出血で自発呼吸のない患者さんが救急搬送されてこられて、翌日に内科の先生に引き継ぐまで一晩中エアーバッグをもんでいたことです。
 その後、6カ月間麻酔科の研修に行ってからは、気管内挿管もできるようになり、当直もそれほど緊張せずにこなせるようになりました。
 2例目は次に勤務した、やはり救急病院での例です。お腹が痛いと来られた高齢の患者さんで、腹部のX―Pで腹腔内にエアーがあるのに、もう痛みが治まったので帰りますと言われました。できれば入院しておいたほうがいいですよと言っても聞いてもらえなかったので、明日必ず受診して下さいと言って帰しました。翌日外科を受診され、緊急手術になりました。胃潰瘍の穿孔で、たまたま運よくその部位が大網に張り付いていたため、大事に至らなかったとのことでした。翌日必ず受診してもらうように言っていたのが守られて、ほっとしました。
 開業してからの忘れ得ぬ症例は、30代の男性が左の肩が痛いと来られ、診察をしながら何か変な感じがしましたので、どこか内科のかかりつけの先生はおられませんかと聞きましたら、当院からすぐの内科にかかっているとのことで、そちらに行って診てもらって下さいと行ってもらいました。
 しばらくしてから当院の前を救急車がその内科医院のほうに走っていきました。すぐその先生に電話をしましたところ心筋梗塞を起こしたが、病院で治療してもらって事なきを得たとのことでした。
 長年医師をしていますと、いろんな症例に遭遇します。これからも自分の専門以外のことにも、十分気を付けて診療にあたりたいと思っています。

ページの先頭へ