尾崎 望(右京)
私は人に語れるほどの趣味を持たない。あえて言うなら音楽鑑賞というありきたりのものだ。ジャズやロックも嫌いじゃないがクラシックをよく聞く。小学校1年か2年の時に家族が連れてってくれた映画のなかでオーケストラをバックにピアニストが奏でていたチャイコフスキーのコンチェルトの1番、もちろん白黒画面で、50年以上も昔のことでもありストーリーは一切忘れてしまったが、このシーンだけは印象的で、世の中にこんなにも優雅できれいな旋律があるのかとおさなごころにものすごく感動したのを覚えている。私のクラシック音楽との出会いだったように思う。
以後の遍歴をピアノ曲でたどると、高校時代にクラシック好きの友人がいて、その彼がしきりに勧めるので、この時期ベートーベンにはまった。コンチェルト5番「皇帝」の完璧な枠組みとスキのない流れるような旋律にこれまた感動した。いまでも時々グルダとシカゴ交響楽団演奏のCDを聞く。ピアノソナタもよく聞いた。それ以後、ベートーベンのこの安定しすぎたところが何となく物足りなく感じてるうちに、これまた映画の中で聞いたラフマニノフにひかれた。映画のなかでは挫折した天才ピアニストがコンチェルトの3番をひいていたが、私は陳腐といわれようとも2番が気に入っている。郷愁や感情をそのままぶつけたような旋律に心が躍る。
私の場合、音楽の好みはその時の気分の高揚や落ち込みで時々に変化する。それでも何が一番気に入っているかと問われたら、文句なしにシューベルトのピアノ即興曲を挙げる。いまはピレシュのCDを聞いている。バッハ、ベートーベン、モーツァルト、ショパン、グリーグ、それぞれにいいなあと感じることはあるが、シューベルトのやさしさ、気楽さと掛け値なしの美しい旋律はいつ聞いても癒される。コンサートからは遠ざかって久しく、もっぱら運転中にCDを聞くという情けない音楽ファンである。