礒部博子(宇治久世)
私は55歳の女医です。仕事をしながら頑張って育てた2人の娘も巣立ってしまい、小さな診療所の経営も可もなく不可もなし。そこではまってしまったのがフラメンコ。自称「女医もできるフラメンカ」です。
私には趣味が二つあります。一つはテニス。大学時代に始め、時々中断もしましたが、ほぼ35年間続いており、今は週1~2回。結構激しい運動で体がすっきりしますし、最近の錦織ブームもあり、楽しくプレーしています。
もう一つがフラメンコ。これがまことにやっかいな趣味なのです。始めて12年経つのですが、始めた動機は宴会の席で皆さんに楽しんでもらえるかくし芸があればという、単純なものでした。最初は年1回の発表会に向けて、とにかく先生に言われる通り、リズムに合わせて手足を動かせばいいと軽く考えていました。とはいえ、まずフラメンコのリズムは裏拍を感じなければいけません。
これが日本人には難しく、いつのまにか表に入って、民謡の手拍子のようになります。おまけに手と足のリズムが違ったり、途中でテンポが変わったりしますが、みんなで合わすので決してマイペースは許されません。難しい足の運びをすべて記憶し、ギターとカンテ(歌)に合わせてリズミカルに打てるようになるのが第一の関門です。
でも、これができるようになると少し楽しくなり、フラメンコを踊っている気分になります。これに手をつけ、顔をつけ、ときには飛んだり、回転したり、とにかく先生のまねっこをすればなんとなく形になります。
最初の5年はそれで満足し、発表会に出ました。しかし、時が経つにつれ、「何か違う」いや「先生のとはまったく違う」と思うようになりました。体の使い方、重心の位置、どの筋肉に力を入れるかで踊りは変わります。もっというと、気持ちの持ち方、そして自分の周りの空気まで動かして、観る人に何かを訴えるのが、フラメンコなのです。
それに気づいたとき、わたしのフラメンカへの長い長い道のりは始まりました。その長い長い話は、また次回、ゆっくりお話しすることにしましょう。