2012年京都府内二酸化窒素(NO2)測定結果
大気中のNO2濃度は低下傾向も PM2・5など不安因子は増加!
環境対策委員会(京都府保険医協会 京都府歯科保険医協会)
はじめに
保険医協会環境対策委員会の呼びかけに応じていただいた、会員による京都府内二酸化窒素大気汚染調査も今回で通算12回(11年間)を数えました。ご協力に心より感謝申し上げます。
大気中の二酸化窒素(NO2)の主な発生源は、自動車の排気ガスによるものです。11年間にわたる調査結果からは、府内で汚染は減少しましたが、これまで汚染が少なかった地域が減り、拡散され、平均化していることが示唆されます。わが国では、自動車の登録台数はそれほど減っていませんが、自動車の排気ガス対策、低燃費、ハイブリット車、電気自動車の登場、若者の車離れなどにより、大気中のNO2濃度は低下傾向にあります。しかし、中国では急激な経済成長による建設工事や自動車の増加などで深刻な大気汚染が進んでおり、海を越えてのPM2・5(説明後述)による影響も無視できない状況が生まれています。
測定方法
今年度も、ここ数回の調査にご協力いただいた方を対象に、プラスチックカプセル(天谷式NO2簡易測定カプセル)を郵送させていただきました。このカプセルを原則、会員医療機関玄関先あるいは近辺道路の、地上から1・5mの高さに粘着テープで取り付け、24時間大気にさらした後回収、協会へ返送していただきました。
カプセルは配布1862個、回収948個、回収率は51%(11年54%、10年52%、09年53%、08年49%、07年45%、06年35%)でした。07年からは配付対象の協力者を絞っています。測定に問題あるサンプルが164個あり、統計からは除外しました。またその他として、四条烏丸付近、油小路と十条通、横大路付近、五条御前の定点観測に111個(回収111個)を用いました。
測定は大気汚染全国一斉測定日に合わせて
測定は大気汚染全国一斉測定日に合わせた2012年12月6日(木)原則午後6時から12月7日(金)午後6時までの24時間で、6日〜7日の天候は、曇り時々晴れで、最高気温9〜10℃の比較的寒い24時間でした。
大気中のNO2濃度は天候や空間・地形と相関し、晴れ、無風の日は比較的高く、雨や風の強い日には、測定値は低く出ます。また狭まった空間や地形(特に盆地)ほど拡散されにくいため高く、広い空間ほど低く出ます。
測定基準
測定基準は例年通り、国の定めた環境基準(78年)41〜60ppbに準じて、20ppb以下を“きれい”、21〜40ppbを“少し汚れている”、41〜60ppbを“汚れている”、61ppb以上を“大変汚れている”と分類しました。なお、京都市は当面の環境保全基準を40ppb(86年以前は20ppb)以下としています。
測定結果
12年度NO2測定データ集計一覧を表1に示します。
地域の「平均値」を見ますと、京都市内では20〜25ppbと各行政区に大きな差を認めなくなりました。高い順に、南区、伏見区が25ppb、次いで中京区、下京区、東山区、山科区24ppb、上京区、北区、西京区21ppb、左京区、右京区20ppbとなっています。市内のほとんどの区が、“少し汚れている”に入っています。
京都市以外の府内では、城陽市28ppb、宇治市、八幡市、京田辺市25ppb、向日市24ppb、長岡京市23ppb、久世郡、乙訓郡、木津川市22ppb、綴喜郡21ppb、亀岡市20ppb、相楽郡19ppb、福知山市18ppb、舞鶴市、船井郡17ppb、宮津市15ppb、与謝郡12ppb、京丹後市11ppbの順になっています。京都府南部、京都市に隣接する中部地域が、“少し汚れている”に入ります。
ワースト10とベスト10を表2、3に示しましたが、今回61ppb以上の“大変汚れている”地点は、城陽市寺田の65ppb1カ所でした。10ppb以下の“きれい”な地点は今回14カ所もみられました。
NO2濃度平均値年次推移(表4)で過去12回・11年間の経過を見ますと、測定初期の頃と比較し、NO2濃度は全般的に低下傾向を示しており、高い地域と低い地域の差が縮まり、府内全体が平均化しています。
阪神高速道路8号京都線(「京都高速道路」)は、11年3月27日に斜久世橋区間(写真1)の完成により、一気に山科が山科トンネル〜十条〜油小路〜伏見を経て、第2京阪道路につながりました。4年前から測定を開始した高速道路出入口付近の十条通付近は27・8(北)〜28・6(南)ppb、油小路通付近は31・2(西)〜31・7(東)ppb、京都市内で最も汚染の強い横大路付近は37・2(北)〜39・6(南)ppb、烏丸蛸薬師の京都府保険医協会は34ppb、四条烏丸交差点付近は37(北)〜36・5(南)ppb、元京都府医師会館近辺の五条御前交差点は、今回34ppbでした。
NO2の特性と人体への影響
人間の経済・社会活動にもとづく物質の影響で、大気が汚染されることを大気汚染といいます。大気汚染物質には、酸性雨、光化学オキシダント、窒素酸化物、粒子状物質、硫黄酸化物、一酸化炭素、ダイオキシンなどがあります。私たちがこれまで測定してきたのがNO2濃度で、NO2濃度は種々のものに相関するため、これにより大気汚染の程度をはかる指標にしています。
ものが燃える時、大気中の窒素と酸素が高温に加熱され、化学反応を起こし、NO並びにNO2が発生します。現代の大気中のNO2は、50%以上は自動車による排ガスです。NO2の人体への影響は、水に難溶性のため上気道で吸収が行われないので刺激が感じられず、すべて深部の肺胞に無刺激で到達します。そのため、上気道での沈着が少なく、細気管支や肺胞などの下気道に影響を与えます。NO2の高濃度(2500ppb以上)吸入では吸入直後は無症状ですが、数時間後に咳漱、発熱などの症状が始まり、急速に肺水腫へと進行します。また、数週間の潜伏期を経て、繊維性閉塞性細気管支炎(BFO)を発症させる可能性があります。NO2濃度と喘息の発症率とは相関関係にあり、NO2自体は無機化合物のため喘息の抗原物質とはなりにくいものの、気道の線毛を脱落させ、アレルゲン作用を増強させます。またTリンパ球やBリンパ球の増強に関係し、一旦患った喘息をさらに悪化させます。その他、大気汚染物質で重要なものに、浮遊粒子状物質があります。
話題のPM2・5などの毒性について
浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matter)とは大気中に浮遊する粒子直径が10ミクロン以下のものをいいます。その濃度はNO2と相関関係にあるとされています。SPM中のさらに粒子直径が2・5ミクロン以下のものをPM(Particulate Matter)2・5と呼んでいます。
現在、中国東部でPM2・5を含んだ濃霧で、深刻な喘息や呼吸困難などの健康被害が起きています。テレビや新聞の報道で、霧でかすむ北京市街の光景、これはひどいと思われたことでしょう。北京で1月、PM2・5の測定値が、1m3あたり250μgを超えた日は15日以上。29日には「計測外」の500μgに達しています。後述するWHO基準の10〜20倍です。北京大学などは12年12月、北京、上海、広州、西安でPM2・5が原因で、約8500人が早死にし、経済損失は68億元(約980億円)に達するという研究結果を発表しています。わが国では、PM2・5について00年9月、年平均で1m3あたり15μg以下、日平均で同35μg以下という環境基準を決めています。一方、WHOの指針では年平均10μg、日平均25μgと日本の基準よりも厳しくなっています。近畿でも時間帯によって、複数の測定局で1時間毎のPM2・5の測定値がm3あたり35μgを超えています。こうした値に中国の大気汚染はどれほど影響しているかについては、近畿地方では約4割、九州や中・四国地方では約5割と、中国の濃度の10分の1、20分の1と推定されています(朝日新聞記事から)。
人間が呼吸を通して微粒子を吸い込むと鼻、咽喉、気管、気管支、肺など呼吸器に沈着することで健康への影響を引き起こします。粒子径が小さいほど肺の奥まで達する可能性が高く、PM2・5を吸い込めば肺の奥深く、血管にまで入り込み、喘息、気管支炎、肺がん、心疾患などを発症させ、死亡リスクを高めるとされています。このPM2・5中に、特に有毒なディーゼル微粒子(DEP:Disel Exhaust Particulate)が含まれています。DEP中には、非常に有害な発がん性物質やダイオキシンなど、様々な毒性の強い有機化合物がたくさん含まれていて、肺胞に達し血液内に入っていきます。DEPはこれまでの研究成果や動物実験などから健康への影響として、(1)肺がん(2)アレルギー性鼻炎(3)気管支喘息(4)食物アレルギー(5)自己免疫疾患(6)環境ホルモン作用などを引き起こすことが知られています。そのため、日本を含めた先進国で喘息や花粉症などの粘膜アレルギーの増加の原因物質として、DEPは大いに注目されています。
大気中のNO2、PM2・5やDEPも共に、自動車排気ガスに大きく由来しており、微量でも長年にわたる吸入は、人体へ呼吸器系をはじめ全身に悪影響を及ぼします。
地球温暖化を促すCO2も排出する自動車
世界の至る所で熱波、寒波、豪雪、洪水、干ばつ、山林火災等が起こり、私たちの日常生活でも、今まで経験したことのない竜巻や、大雪、酷暑など異常気象は誰の目にも明らかです。地球温暖化は待ったなしの課題です。地球温暖化を防止するため第18回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)が、12年11月末に、カタールのドーハで開催されました。京都議定書(77年京都開催のCOP3で決定された法的拘束力を有する国際条約)を第2約束期間として、8年継続させ、新たな枠組みを20年から実施させることを決めました。新たな枠組みは、米国や中国を含むすべての国が参加する法的文書とされ、15年に開かれるCOP21までに作業を完了させるとしています。今会議で、京都議定書第2約束期間に対し、米国は離脱、カナダは脱退、日本、ロシア、ニュージーランドは削減目標を拒否し事実上離脱しました。日本政府は、以前鳩山首相が国際公約した20年25%削減を否定し、2度の不名誉な化石賞を受賞しました。京都議定書では日本の目標は、90年のCO2排出レベルの「6%削減」です。10年の排出は、経団連発表では12・3%削減となっていますが、外国からの排出枠購入分などを入れているため、実質は90年比10%増となりました。
温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)をはじめ、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フッ素化合物などがあります。温暖化の寄与度はそれぞれ、63%、18%、6%、13%となっています。そのうち「運輸部門」はCO2排出の15〜20%を占め、その9割弱が自動車によるものです。大気中に自動車によってばらまかれるのは大気汚染物質であるNO2や浮遊粒子状物質だけでなく、CO2も排出され、地球温暖化に一役買っています。ガソリン1に対し2・3?のCO2を排出します。
自動車は人やモノの移動手段として、社会や個人に多くの利便性を与えてきました。しかし反面、人々の生命・健康・安全を脅かす存在としても認識されるようになり、自動車交通事故、道路渋滞、環境破壊(大気汚染、騒音、振動など)、石油消費、空間占拠など多くの負の側面も抱えました。道路建設にも多くのCO2排出を伴います。政権交代で、またまた公共事業が増え、自然・環境破壊の高速道路建設が計画されています(写真2)。12年12月に高速道路笹子トンネルの崩落事故がありました。道路や橋の劣化も進んでいます。そろそろ、「クルマ社会」からの脱出をはかろうではありませんか。
おわりに
これまで12回にわたって、会員のお力をお借りして、NO2測定大気汚染調査を行ってきました。10年あまりの結果からは、大気汚染は府・市内で平均化し、びまん性に拡散しています。
私たちは生命や健康を守るために、また次世代へ残さねばならない地球環境持続のために、小さいながらも具体的な日常行動の積み重ねが重要です。
そして3・11を経験した今、省エネ、環境に負荷をかけない地産地消の「小さい」生活、化石燃料、原発に頼らない再生可能エネルギーへの転換を迫られています。
これまでのご協力にあらためて謝意を表しますと共に、今後の測定にもご協力をお願い申し上げます。