裁判事例に学ぶ 医療紛争の防止(2)
宇田憲司
入院治療の継続は診察の上必要と診断されるとき
1994年11月24日90歳過ぎの男Yは、自転車で走行中普通車に衝突され腹部打撲・全身打撲・膀胱損傷疑いと診断され、救急入院した。
29日リハビリ開始し右膝痛で中止し、左膝痛も加わりMRI検査で右膝外側半月板損傷が疑われた。95年8月大学病院で右膝内側半月板損傷と診断され、関節鏡手術を考え県立X病院整形外科に紹介入院した。入院時の検査ではRA(+)、CRP8・4などや両膝・手関節・両指腫脹から関節リウマチ(RA)の診断でステロイドを投与し、半月板損傷はRAによるもので「手術は意味がない」と説明され、事故後からの下腹部痛は10月腹部CT検査の上、内科受診し「異常なし、但し腸の動き悪そう。RAの影響か?」と診断された。経口リウマチ薬を投与し、11月退院勧告したが、家族は応じなかった。
96年6月以降Yは「電波が頭の中にある」など幻聴や妄想を訴え、97年2月頃から夜間徘徊がみられ、家族を呼んだが来院せず、他の女性患者や店員に、陰部を露出したり、付きまとい、意味不明な手紙を出したり、病室へ侵入したり、病棟や病院通路で大声で怒鳴り、罵声を発するなど迷惑行為が生じ、看護師に抱きつくなど異常行動がみられた。その後、試験外泊を実施し、精神科受診を勧めたが返事がなかった。退院勧告が何度も行われたが、Yは病室を占拠し続けた。Yは、更に看護師や事務職員に一方的に罵倒するようになり、X病院は、98年5月警備を院外に委託し、6月4日X病院は病室明け渡しの仮処分命令を裁判所に申し立て、20日Yは自主的に退去したが、翌21日家族と共に玄関前で抗議行動を行った。
Xは、97年5月以降未払いの診療費および個室料差額、並びに警備費用の支払いをYに求め提訴した。
地裁は請求を認め、Yは「半月板損傷への手術未実施」などを理由に控訴した。裁判所は、医師の説明に不穏当と思われる発言もあったが、必要な治療の放棄はなく、不適切な治療もなかったと認め、Yに上記の未払金と費用の支払いを命じた(名古屋高判平14・6・5、LEX/DB TKC)。
院内暴力・迷惑行為を理由として診療契約を解約し患者を強制退院させる場合、その条件は「治療継続の必要性がない」こととなる。また、医学的適応のない入院継続により病室が不法に占拠される場合は、裁判所に仮処分で退去命令を請求するとの方策もある。
(ニュース124号より)