社会保障憲章・基本法の草案提示 福祉国家と基本法研究会が東京でシンポ
シンポジウム「新しい福祉国家の姿を展望する―社会保障憲章・基本法の提起を通じて」が10月24日、東京・御茶ノ水の全電通労働会館ホールで開かれ、全国から約240人が参加した。主催は「福祉国家と基本法研究会」で、同研究会は京都府保険医協会が社会保障基本法の必要性を問うため昨年9月に東京で開催したシンポジウムを機に発足。福祉国家型の社会保障原則を明示する社会保障憲章及びそれを具体化し社会保障領域の立法、行政を規制する社会保障基本法の作成を検討し、それぞれの第1次草案をこの場で提起した。今後、草案について12月末まで意見募集し、来年2月に最終案とし、3月に記者発表し出版する予定。
シンポジウムで示された憲章・基本法の草案を熱心にきく聴衆
シンポジウムでは、まず竹下義樹氏(つくし法律事務所・弁護士)が社会保障を取り巻く今日的情勢について報告。この十数年で日本に貧困が定着し、生活保護や障害者自立支援法を巡る裁判が全国で争われ、勝利しても好転していない。そんな中、京都で保険医協会の呼びかけによる勉強会が始まり、社会保障基本法制定を目指す運動がスタートした経緯を解説し、日弁連でも活発化している取り組みを紹介。一つひとつの要求運動を、点から面にするための取り組みとして、憲章と基本法の意義を強調した。
続いて井上英夫氏(金沢大学教授)が、憲章と基本法の提起にあたっての経緯を説明。社会保障の後退、混迷する現況に対し、憲章においては理念、原理、原則を明確に謳い、それをさらに法的な基本法に具体化していく作業をすべきと考え、二本立てとした。その中で、社会保障を人権の一つとして捉える視点と、国際的諸条約の到達した水準を国内で実現することを重視したと説明した。また、憲章・基本法への意見を通じて、自ら参加して作り上げることを呼びかけるとともに、ここで示した内容を、どのように運動に生かすかは、それぞれが考えて工夫してほしいと問題提起した。
発言する竹下、井上両氏 |
「社会保障憲章2011」について後藤道夫氏(都留文科大学教授)から、「社会保障基本法2011」について渡辺治氏(一橋大学名誉教授)から、それぞれ第一次草案が提案された。
憲章と基本法を提起する後藤・渡辺両氏 |
憲章案は、社会保障への期待と需要が急速に拡大する一方で、国の公的関わりと責任が後退を続けている中、社会保障の充実を実現するためには日本社会のあり方を大きく転換することを謳う。そのための原則として、国がナショナルミニマム保障を担保する財源への責任を負い、その運営は基礎自治体が担う。必要に応じた給付と応能負担原則などを提示した。
基本法案は全32条の中で、憲法25条が保障する権利を実現するための諸原則、国・地方自治体及び企業の責務を明らかにし、手続的権利と制度を規定した。
これを受けたフロアとのディスカッションでは、社会保障の各分野からの発言があった。このうち中央社会保障推進協議会・事務局長の相野谷安孝氏は、全ての社会保障分野で各々が金槌で巨大岩盤を穿つ闘いをしてきたが、その運動体に大きな共通のハンマーが与えられた。これを皆でどう使いこなすか大いに論議して生かしていきたい、と決意を述べた。
また、この取り組みをサポートする団体の立場から、全日本労働組合総連合事務局長の小田川義和氏と全日本民主医療機関連合会副会長の吉田万三氏が開会と閉会の挨拶を担当。この運動への期待を語った。
なお協会ホームページに、当日の動画及び憲章と基本法の第一次草案を掲載している。
福祉国家と基本法研究会メンバー
朝日 健二 NPO法人朝日訴訟の会理事
安達 智則 東京自治問研常務理事
伊藤 周平 鹿児島大学教授
井上 久 全労連事務局次長
井上 英夫 金沢大学教授
小川 政亮 日本社会事業大学名誉教授
尾崎 望 京都府保険医協会理事
小野 浩 きょうされん政策・調査委員会副委員長
垣田さち子 京都府保険医協会副理事長
鐘ヶ江正志 生協消費者住宅センター副理事長
唐鎌 直義 社会保障研究者
木下 秀雄 大阪市立大学教授
後藤 道夫 都留文科大学教授
今田 隆一 全日本民医連副会長
斎藤なを子 きょうされん副理事長
鈴木 浩 福島大学名誉教授
竹崎 三立 東京社保協会長
竹下 義樹 つくし法律事務所 弁護士
中島 明子 和洋女子大学教授
二宮 厚美 神戸大学教授
細田 悟 東京保険医協会理事
前沢 淑子 東京社保協事務局長
森本 玄始 東京保険医協会理事
渡辺 治 一橋大学名誉教授
渡邉 賢治 京都府保険医協会理事
(50音順、敬称略)