理事提言/「ワクチン後進国」からの脱却なるか  PDF

理事提言/「ワクチン後進国」からの脱却なるか

保険部会 長谷川功

 去る9月4日、当協会によるワクチンをテーマにした府民向けの講演会が開催され、多数の府民の方々に参加いただいた。その中で子宮頸癌ワクチン、髄膜炎関連ワクチンを定期接種化する重要性についての意見や訴えが交わされた。また私自身、ポリオ生ワクチンによりポリオに罹患した被害者の訴えを初めて直接聞き、不活化ワクチン導入の必要性を再認識させられた。

 日本が「ワクチン後進国」と呼ばれて久しい。現在、世界の大多数の国で、その有効性が確認され定期接種化されている髄膜炎関連ワクチンのヒブ、および肺炎球菌ワクチンが日本に導入されたのは、この1〜2年の間であり、しかも任意接種(注1)であるため、すべての子どもがその恩恵を受けることができない。比較的速やかに導入された子宮頸癌ワクチンでも、世界的には99番目の遅さである。米国で10年以上前に、ポリオワクチンは安全性の面を考慮して、生ワクチンから不活化ワクチンに切り替わっている。いわゆる先進国で、不活化ワクチン切り替えが行われていない国は日本だけである。

 米国でヒブワクチン接種が開始されたのは1990年のことであり、日本は米国に約20年の遅れをとっている。ワクチン行政が停滞するきっかけは1989年〜1993年の間に麻疹、風疹、おたふく風邪を予防するMMRワクチンの副反応で、無菌性髄膜炎が多発したことである。その背景には薬害エイズ問題など、厚労省が新薬の承認を慎重にさせる事件も関係している。

 一方で、この20年間に日本では、ワクチン被害への救済体制が未整備のままであったことも大きな問題である。現状では、予防接種法で定められた期間に接種した場合にのみ、「予防接種健康被害救済制度」が適応になる。その定められた以外の時期に接種した場合は、通常の医薬品の救済制度「医薬品副作用被害救済制度」が適応される。ワクチンに関しては一本化された救済制度が存在せず、またその補償額には大きな開きがある(注2)。

 10月26日に平成22年度補正予算が閣議決定され、「ワクチン接種緊急促進臨時特例交付金」が盛り込まれることとなった。子宮頸がん、ヒブ、肺炎球菌ワクチンに関しては国による定期接種へようやく動きだしたようである。また国民の間でも新型インフルエンザを機に、ワクチンの必要性を多くの人が認識しつつある。ワクチンの目的は病気の予防であり、国にとっては医療費抑制の有効な手段である。行政が過去の苦い経験を振り切って予防医療を前向きにとらえることができた時にはじめて、日本は「ワクチン後進国」から脱却できるのであろう。

 注1)ヒブワクチン1回約7000円、肺炎球菌ワクチン1回約9500円、いずれも計4回の接種が必要であり、その場合、合計約6万6千円。子宮頸癌ワクチン1回約1万5千円、計3回の接種が必要であり、合計約4万5千円。

 注2)ワクチン接種により有害事象が発生した場合は、定期接種では予防接種法による予防接種健康被害救済制度、任意接種では独立行政法人医薬品医療機器総合機構の医薬品副作用被害救済制度による救済がある。前者では生計維持者でない者が死亡した場合、予防接種法により死亡一時金4280万円、後者では医薬品医療機器総合機構法による遺族一時金の713万5200円(別途、それぞれに約20万円の葬儀(葬祭)料あり)。

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