憲法を考えるために(46)  PDF

憲法を考えるために(46)

立憲主義?そんなん知らん

 憲法第99条〔憲法尊重擁護の義務〕天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 このコラム(立憲主義)で記載した内容だが、立憲主義は単に憲法を制定し、それに従って統治するという政治の在り方をいうのではなく、そこで制定される憲法が、人権を保障し、権力分立を実施するように国家の統治機構を定めていることが要件だ。国家は領土や住民を権力を持って統治する主体で、住民の自由を規制する権限を持っている。そして古今東西の歴史をみれば、その権力が住民の生存すら脅かすほどの自由の制限を強いてきたことがあったのは紛れもない事実だ。そして近代になって、その権力に歯止めをかけようとして生まれてきたのが、立憲主義だといえる。立憲主義とは国家権力の行使をすべて憲法の定めのもとに置き、憲法が国家権力に権限を授け、憲法は国家権力を制限するものであり、言葉を変えれば立憲主義に基づく憲法とは、自由と人権を保障するために定められたものだ。そしてその自由と人権の保障を実効あるものにするための仕組みとして、憲法は全ての法の上位にあり、法の支配=国家機関は全てあらかじめ定められた法に拘束され、そして権力は分立される(三権分立)。

 2月衆院予算委員会での野党質問「憲法とはどのような性格のものか」に対し、首相答弁は「考え方の一つとして、いわば国家権力を縛るものだという考え方がある。しかし、それは王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方であって、いま憲法というのは日本という国の形、理想と未来を、そして目標を語るものではないかと思う」。首相は「立憲主義の考え方は、絶対王制時代の遺物だ」とでも言いたいのだろうか(私はこれをテレビの国会中継で見たのだが、議員の反応は見られなかった)。

 それに続いて同委員会で(現憲法下で認められていない)集団的自衛権を解釈(改憲)で可能にすることを目指す首相は、「最高の責任者は私だ。政府の答弁に私が責任を持って、その上で選挙の審判を受ける」と発言。これは、その時々の政権が憲法に対する解釈拡大を自由にし、解釈を変更することを可能にすることに道を開くことであり、立憲主義の否定、ひいては憲法の否定に繋がると言わざるを得ない。

 憲法擁護義務を負う首相、「立憲主義? そんなん知らん」、まさか。

(政策部会理事・飯田哲夫)

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