憲法を考えるために(33)  PDF

憲法を考えるために(33)

「再・集団的自衛権(3)」―脅威の再生産―

 (前回要約)集団的自衛権とは「自国と密接な関係にある国(現実には安保条約を結んでいる米国を指す)に対する武力攻撃を、自国は直接攻撃されなくとも、自国への攻撃と見なして、それに対して武力行使をする権利」であるが、現憲法上、行使は許されない(政府公式見解)。

 この集団的自衛権のもつ特徴の一つは、「事前に共通の仮想敵」が設定され、それにもとづいて(先制攻撃を含めた)武力攻撃が行われることといわれます。ここでは米国の敵(=脅威)の認識の変化を少しみておこうと思います。

 イラク:’80年に始まったイラン・イラク戦争で、米国は(ホメイニ革命に対抗し)イラクを支持=イラクをテロ支援国家リストより除外、武器売却禁止の解除、物資(兵器)輸入への融資保証(最終的には50億ドルに)など軍備支援、国連安保理のイラン化学兵器使用非難を無視、「(イランに)一層の友好関係を深めることを望んでいる」(米/湾岸戦争4日前)、「フセインはヒットラーである」(米/同1日後)。そしてその後、大量破壊兵器を理由にイラク戦争が始まる。

 アフガニスタン:’79年、ソ連が国連憲章の「集団的自衛権」行使を理由に、アフガニスタンへ侵攻。米国はそれに対抗=アフガニスタン・イスラム聖戦士に兵器供与など軍事支援(その活動のためのサービスセンターとして設置されたのがアル・カイダ)、世界からイスラム急進派をアフガニスタンに結集(この米国の支援を受けた作戦の組織者がオサマ・ビン・ラディン)。そしてソ連撤退後、米国はアフガニスタンにおいて「国際テロリスト」との闘いを現在まで続けている。

 ここで述べたことはパワーポリティクスの世界では常識なのかもしれませんが、しかし一方で「脅威の再生産」といわれているのも事実です。

 護憲にしろ改憲にしろ憲法を考えるとき、その最大の問題は9条であり、それに関連して集団的自衛権も大切な問題といわざるを得ませんが、それだけに集団的自衛権を認めると云うことは、現実にはどのようなことを意味するか知ることも大切ではないでしょうか。

 この問題をめぐってこのような記述がありました。「隣家に放火して悪行の限りを尽くしている『ならず者』に対し、当面の自ずからの利益だけを考えて大量の可燃性物質を売りさばき、果たせるかな大火事が発生すると、この大火事を引き起こした自ずからの責任はすっかり棚上げして、消火に努めるのは町内に住むものの『義務』であり『崇高な任務』であると言い募る、といったところであろうか」(豊下楢彦著『集団的自衛権とは何か』岩波書店)。

 「脅威の再生産」の本質を言い得て妙ではないだろうか。(政策部会理事・飯田哲夫)

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