憲法を考えるために
「国民投票法―放置された法の施行」
5月18日に国民投票法が法案成立後3年を経て施行されました。立憲主義にもとづく硬性憲法の改正にかかわる問題と、国民投票法がもつ問題については、憲法を考えるために(2)(3)で述べました。一部を繰り返せば、国民投票法は「単なる手続き法」などでは決してなく、それはたとえ少数派であっても守られるべき権利があると定めた憲法の改正を、(国民投票にもとづく)多数決で決めるのですから、慎重の上にも慎重にするべきもののはずでした。しかし法案は、(1)憲法改正に関する(反対も含む)自由な議論と、それにもとづく運動が抑圧されてしまう危険。(2)意見形成に影響が大きいと思われるテレビなど有料広告の危険。(3)最低投票率を定めていないので、ごく少数の意見で改憲を決定してしまう危険など大きな問題を含んだものでした。
しかしこれらは十分に議論されることなく、そのことと関連して、多くは「この法律が施行されるまでの間に」「必要な検討を加えること」などとした付則・付帯決議が多数追加決議されました。これらの多くは先に述べたことを含む憲法改正にかかわる根本的で重要な問題にほかなりません。それにもかかわらず、これらの問題は「この法律が施行されるまでの間に」「必要な検討を加えること」などされないままに、施行されてしまったのです。
具体例を2、3あげると、(附則11条・公務員の政治的行為の制限に関する検討)「この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」。(付帯決議・有料広告規制)「テレビ・ラジオの有料広告規制については、公平性を確保するためのメディア関係者の自主的な努力を尊重するとともに、本法施行までに必要な検討を加えること」。(付帯決議・最低投票率)「低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること」。
これらの重要な事項に関してさえも、必要な処置が講じられていないことはもとより、ほとんど何らの検討すらされていません。繰り返しになりますが、国の基本を定める憲法の改正手続きは、立憲主義、国民主権原理からも、国民の意思が正確に反映されるよう最大限の慎重さが求められます。しかし国民投票法に含まれるこれらの問題点に対する、附則及び附帯決議への検討がほとんどなく、必要な法制上の措置がとられていないままの法の施行には重大な疑義があると言わざるを得ません。
(政策部会理事・飯田哲夫)