初・再診料で要望書/コスト別算定とし大幅引き上げを
京都府保険医協会は11月8日、初・再診料に関する要望書を野田首相、小宮山厚労相、中医協会長などに送付した。
要望項目は以下の2点で、これは会員に行ったアンケート結果に基づいたもの。(アンケート結果及び要望の詳細は下記のとおり)
1、現在の診療所の再診料は、「基本的な医療の提供に必要な人的、物的コスト」を補填するにも不足しており、医師の「基本的な診察や処置等」の費用は評価されていません。「基本的な医療の提供に必要な人的、物的コスト」は別途点数化した上で、初・再診料は大幅に引き上げるべきです。
2、財政調整のために診療所の再診料に改定財源を求めるようなことは絶対に止めて下さい。
初・再診料に関するアンケートの結果について
京都府保険医協会は、2011年8月26日、任意抽出した診療所会員212人に対して、標記のアンケートを実施しました。締切は9月16日。回収数は44人分、回収率は20.6%でした。第一標榜科目の内訳は、内科系68.2%、外科系31.8%でした。
1.初・再診料に含まれているとされている費用について
10年9月29日の中医協において、厚生労働省保険局医療課が提出した資料「初・再診料について」(中医協総−5、22.9.29)によれば、
初・再診料、外来診療料は初・再診の際の基本的な診療行為を含む一連の費用を評価したもので、以下のような簡単な検査、処置等の費用が含まれるものと考えられる。
(1) 診察にあたって、個別技術にて評価されないような基本的な診察や処置等
a)視診、触診、問診等の基本的な診察方法
b)血圧測定、血圧比重測定、簡易循環機能検査等の簡便な検査
c)点眼、点耳、100<CODE NUMTYPE=SG NUM=54C0>未満の皮膚科軟膏処置等の簡単な処置等(2) 診察にあたって、基本的な医療の提供に必要な人的、物的コスト
d)上記に必要な従事者のための人件費
e)カルテ、基本的な診察用具等の設備
f)保険医療機関の維持に係る光熱費
g)保険医療機関の施設整備費等
〔注:a)〜g)の記号は当方で付与〕
とされています。
このうち、b)〜g)の費用について、初・再診料はこれらを含んだ費用として評価されているという実感を、会員が持っているかどうか、質問しました。
(1)初診料
まず、初診料については、
?外来看護職員の配置費用は「評価されていない」との回答が71%
?外来医療事務の配置費用は「評価されていない」との回答が84%
?保険請求できない衛生材料等費用は「評価されていない」との回答が86%
?設備利用の費用、設備投資費、光熱費は「評価されていない」との回答が73%
?カルテ作成の費用は「評価されていない」との回答が64%
?簡単な検査・処置の費用は「評価されていない」との回答が73%
に達しており、回答者の6割強〜9割弱が、初診料にはこれらの費用が評価されていないと感じていることが明らかになりました。
(2)再診料
次に、再診料については、
?外来看護職員の配置費用は「評価されていない」との回答が71%
?外来医療事務の配置費用は「評価されていない」との回答が82%
?保険請求できない衛生材料等費用は「評価されていない」との回答が89%
?設備利用の費用、設備投資費、光熱費は「評価されていない」との回答が68%
?カルテ作成の費用は「評価されていない」との回答が64%
?簡単な検査・処置の費用は「評価されていない」との回答が77%
に達しており、回答者の6割強〜9割弱が、再診料にはこれらの費用が評価されていないと感じていることが明らかになりました。
以下、?外来看護職員の配置費用、?外来医療事務の配置費用、?保険請求できない衛生材料等の費用、?設備利用の費用、設備投資費、光熱費、?カルテ作成の費用、簡単な検査・処置の費用を含んだ初診時、再診時の医師の基本技術料について、「おおよその感覚」か「該当の人件費等をレセコンで計算される総実日数で割る」等の方法で回答してもらいました。
2.外来看護の費用について
医療機関の外来における看護職員の費用については、第123回国会において「看護婦等の人材確保の促進に関する法律案」が審議された際に、当時の黒木武弘・保険局長が参院厚生委員会で、「外来については、看護婦が行っている在宅療養指導料で、看護婦の業務を単独に評価した点数も新設し、一定の評価を得ている。この方向で引き続き検討させて頂きたい」(92年4月16日)と述べているものの、その後、全く評価されていません。
京都府保険医協会が参加する全国保険医団体連合会(保団連)では、「外来看護料」の新設を長年にわたり要望していますが、全く検討されていません。
これについて、現在の配置状況や、外来看護料に相応しい点数について、質問しました。
(1)70%が正看を外来で配置
まず、外来での看護職員の配置について質問しました。
?71%が正看護師を配置していると回答しました。
?45%が准看護師を配置していると回答しました。
(2)相応しい外来看護の費用
次に、上記2−(1)で、「?配置している」を選択した会員に対して、初・再診料から外来看護職員の配置費用を分離して点数化するなら、看護職員の賃金等から考えて、外来看護の費用はおおよそ何点が相応しいか、質問しました。
?正看護師については、受診毎に平均43.0点が相応しいとの回答でした。中央値は30.0点、最頻値は30.0点、最大値は200点、最小値は5点でした。
?准看護師については、受診毎に平均34.2点が相応しいとの回答でした。中央値は30.0点、最頻値は50.0点、最大値は150点、最小値は3点でした。
3.外来医療事務の費用について
入院における医療事務については、A207-2医療事務作業補助体制加算が設定される等、評価されていますが、外来の事務職員、事務経費については、全く評価されていません。
一方、06年4月より、患者の受診毎に個別の費用毎に区分して記載した領収証の無償発行が義務付けられ、10年4月からは電子請求を行う医療機関は、領収証発行の都度、明細書の無償発行が義務付けられる等、医療機関窓口での業務は増えるばかりです。再診料の明細書発行体制等加算も1点と、コンビニのコピー代程度の評価に止まります。
これら外来事務の費用について、現在の職員配置状況や、レセプト作成の人件費、機器の保守・購入費に相応しい点数について、質問しました。
(1)84%が外来の事務職員を配置
まず、外来での事務職員の配置については、84%が配置していると回答しました。
(2)相応しい外来医療事務の費用
次に、上記3-(1)で、「?配置している」を選択した会員に対して、初・再診料から外来事務職員の配置費用、レセプト作成の人件費、機器の保守・購入費を分離して点数化するなら、外来医療事務の費用はおおよそ何点が相応しいか、質問しました。
?事務職員の配置費用については、受診毎に平均35.7点が相応しいとの回答でした。中央値は20.0点、最頻値は10.0点、最大値は150点、最小値は3点でした。
?レセプト作成の人件費、機器の保守・購入費については、受診毎に平均29.1点が相応しいとの回答でした。中央値は20.0点、最頻値は10.0点、最大値は200点、最小値は3点でした。
4.衛生材料、施設利用等の費用について
(1)衛生材料
保険請求できない衛生材料を初・再診料から分離して点数化するなら、おおよそ何点が相応しいか質問したところ、受診毎に平均31.2点が相応しいとの回答でした。中央値は10.0点、最頻値は10.0点、最大値は300点、最小値は1点でした。
(2)設備利用の費用、設備投資費、光熱費
設備利用の費用、設備投資費、光熱費を初・再診料から分離して点数化するなら、おおよそ何点が相応しいか質問したところ、受診毎に平均45.7点が相応しいとの回答でした。中央値は12.5点、最頻値は10.0点、最大値は400点、最小値は2点でした。
5.初診時、再診時の医師の基本技術料について
療養担当規則第12条は、「保険医の診療は、一般に医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対して、適確な診断をもととし、患者の健康の保持増進上妥当適切に行われなければならない」と定めています。
この療養担当規則第12条を満たす初診、再診に、カルテ作成の費用や、簡単な検査・処置の費用を加えた基本技術料(外来看護の費用、外来医療事務の費用、衛生材料、施設利用等の費用を含まない)は、保険医として誇りを持って地域医療に貢献し、患者が安心できる診療を提供するために、おおよそ何点が相応しいか、質問しました。
(1)初診時の医師の基本技術料
平均445.6点が相応しいとの回答でした。中央値は450点、最頻値は500点、最大値は1000点、最小値は270点でした。
(2)再診時の医師の基本技術料
平均171.2点が相応しいとの回答でした。中央値は130点、最頻値は100点、最大値は690点、最小値は69点でした。
診療報酬改定に対する要望
このアンケートは、経営実態の詳細調査ではなく、「おおよその感覚」か「該当の人件費等をレセコンで計算される総実日数で割る」等の方法で回答を得たものです。
しかし、?外来医療事務の配置費用、?保険請求できない衛生材料等の費用、?設備利用の費用、設備投資費、光熱費―の平均値の合計が1受診当たり141.7点、中央値の合計が同62.5点となり、これに正看護師1人当たり・1受診当たりの平均値43点を加えれば184.7点、中央値30点を加えれば92.5点となるアンケート結果から、現在の診療所の再診料は、3面に掲載した厚生労働省が示す「診察にあたって、基本的な医療の提供に必要な人的、物的コスト」を補填するにも不足しており、医師の「診察にあたって、個別技術にて評価されないような基本的な診察や処置等」の費用は評価されていない、と言えるのではないでしょうか。
また、療養担当規則第12条が求める、「保険医の診療は、一般に医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対して、適確な診断をもととし、患者の健康の保持増進上妥当適切に行われなければならない」を満たし、保険医として誇りを持って地域医療に貢献し、患者が安心できる診療を提供するために、「診察にあたって、基本的な医療の提供に必要な人的、物的コスト」を除いた、医師の初・再診時の診察等の技術料として、初・再診料は大幅に引き上げるべきであり、現行点数の2倍にしてもおかしくはないと思われます。10年改定で「外来管理加算の要件見直しに伴う費用増の予測困難性」を理由に診療所の再診料は2点引き下げられましたが、11年10月12日の中医協総会の資料によれば、診療所入院外医療費に占める初・再診料、外来管理加算の割合、算定回数は共に08年改定により大幅に引き下がったまま、10年度以降も推移しています。このことから、最低でも10年度改定以前に戻すべきです。
さらに、中医協において支払委員各位や厚生労働省幹部の方々は、コスト計算に基づく外来の基本診療料の設定を求めるならば包括化を視野に入れる必要がある、と主張されていると報じられています(『MEDIFAX』紙、11年7月5日号等)。しかし、なぜ、コストの洗い出しを行うなら点数を包括化する方向が打ち出されるのか、全く理解できません。10年9月29日、中医協の診療担当者側委員が「基本診療料及び技術料に係るコスト分析」を要求した結果、中医協・医療機関のコスト調査分科会は初・再診料はおろか入院基本料でさえ「調査実施は困難」と結論付けました。00年の改定で入院環境料、看護料、入院時医学管理料を統合して包括化した入院基本料でさえコスト分析が困難とされているにも関わらず、外来の基本診療料の一層の包括化を進める方向を示すのは、誤りです。
初・再診料から「外来看護の費用」「外来医療事務の費用」を分離して別途評価すること、保険請求が認められていない衛生材料等は特定保険医療材料料のように点数化すること、設備利用の費用、設備投資費、光熱費を分離して別途評価することが必要です。
以上、内閣総理大臣、厚生労働大臣、厚生労働省幹部各位、中医協会長、中医協委員各位におかれましては、診療所の初・再診料の評価を引き上げていただくことをお願いします。
なお、10年度改定で行われたような、改定論議の最終盤において、財政調整のために診療所の再診料に改定財源を求めるような「愚」は今後二度となされないことを強くお願いします。(要望書原文のまま掲載)