事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(3)  PDF

事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(3)

胃癌—術後管理の問題

(50歳代後半女性)

〈事故の概要と経過〉

 胃痛が出現し、医療機関を受診。胃カメラによって胃潰瘍と診断し入院となったが、組織検査から胃体下部の潰瘍部よりグループ4、後日に同部位よりグループ5の早期癌と診断された。そのため幽門側胃切除術を施行した。術後は順調に回復し、流動食を開始したが、嘔吐等が出現し血性吐を認めたため緊急胃内視鏡を実施した。手術の吻合部からの出血が疑われたが、吻合部潰瘍と診断して抗潰瘍療法のみとし、IVHにて絶食とした。その後出血はなく症状が安定したので食事を再開した。後日、夜中に患者は意識を消失。意識回復後に吐血(400cc)を認めたため、PPF250点滴を開始しながら緊急胃内視鏡を施行した。前回の胃内視鏡時に指摘のあった吻合部の出血を疑ったが、胃内には多量のコアグラを認めたものの、露出血管や新たな出血部位は認めなかった。出血点としては縫合糸近傍の露出血管の可能性はあったが、観察時に出血は認めなかったため止血術は行わず、トロンビン散布で終了した。しかし検査中血圧低下を認めたのでPPF2502本を追加した。さらにHb4・6、Hct13・8と貧血が著明となったため、MAP4単位の輸血を行ったが、血圧、脈拍は安定し再出血も認めなかった。再度、患者が洗面所で吐血したので胃管再留置し、血性廃液を認めた。Hb6・8、Hct20・1と前日より約30%低下し、緊急の胃内視鏡検査を実施した。縫合糸近傍の露出血管を疑い、HSEを同部位周囲に注入し出血部を確認した。同部位にエタノール、トロンビンを散布し終了した。しかしその後も吐血を認め、輸血を開始したが心肺停止となり、吻合部近傍の十二指腸切開したところ、吻合部より動脈性の出血を認めた。縫合止血し切開部は空腸と縫合し終了した。その後DIC、ショック肺敗血症を来したが治療により軽快した。後日病室で下顎呼吸、血圧低下を来していることに気づき呼吸管理、蘇生を行った。しかしながら瞳孔散大、対光反射はなく家族と相談の上抜管して死亡を確認するに至った。

  遺族からは、手術の際に止血並びに吻合が不完全であったため、吻合部から出血を起こしていた。直ちに再開腹して完全な止血と再吻合を行うべきであったとして、訴訟となった。

 医療機関としては、胃癌手術の経過、治療方法についてデータを交えて説明している。また術後10日余り経過してのことであり、特に問題はなかったと判断した。

 紛争発生から解決まで約4年間要した。

〈問題点〉

 胃癌の手術適応に問題はない。術後1回目の吐血となった際の処置について内視鏡での適応であり、出血もすでに止まっていたため、保存的に治療を行ったことにも問題は認められない。しかし2回目の吐血となった際の処置について、単にトロンビン散布のみで保存的治療と判断したことには疑問の残るところであった。患者が吐血ショックを起こすほどの状態であり、内科的治療で露出血管にクリップをかけることを考慮すべきではなかったのか。さらに露出血管が脆くクリップが無理な場合、直ちに外科的に胃の全摘や切除部位の拡大を考慮すべきではなかったのか。術後9日目に1回目の吐血があるなど経過として非常に珍しい症例であり、主治医も対応に苦慮していた様子は窺えた。1回目の吐血後、患者の状態が安定したため10日間、血液検査が実施されておらず、出血傾向が把握されていなかった。

〈解決方法〉

 医療機関側は全面的に医療過誤を認めたが、訴額の1/3程度の額で判決には至らず和解で終結した。

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