【主張】変質した「マイナンバー法案」今国会での採決は時期尚早  PDF

【主張】変質した「マイナンバー法案」今国会での採決は時期尚早

 マイナンバー法案が3月1日に閣議決定、国会上程された。先の衆院解散で廃案となった後、初期費用5千億円以上と費用対効果が疑問視されていたことなどは全く議論・解決されないまま、安倍政権下で再提出となった。

 しかも法案の説明文書は前政権のものを流用しながら、本文では幾つかの重大な変質が行われている。第一は、基本理念(第3条2)で、行政以外の分野での利用の可能性を考慮して推進することが謳われたことである(附則第6条6では民間利用を明記)。前法案本文では5年後の見直しと記述され、説明文書でこの時民間利用への拡大を考慮するとした慎重な姿勢から一転、個人情報の民間利用をも基本理念に盛り込んだ。この加筆は将来個人の医療・健康や家族(医療情報には家族歴も含まれる)の機微に触れる情報まで利用し尽くす可能性を含めた大改悪である。第二は、目的(第1条)に個人情報の名寄せが明文化されたことである。番号制度は元々名寄せの制度であるのに、わざわざ書き込む意味は強制力の発動を運用想定してのことと思われる。第三は、番号カードの重視である。前法案では後に置かれていた条項が、第3章第17条に昇格した。ここでは「個人番号カードの利用」が追加され、カード上のICチップを行政や民間事業者その他政令で定めるものが利用できる道を開いた。

 そもそもこの番号制度は消費税増税時の「給付付き税額控除」に必要と出された法案であった。現法案はこの理念も投げ捨て、税の徴収と行政の効率化という昔からの陳腐な説明(正確な資産把握は不可能、行政効率化は未知数と推進派も認めている)の下に国民の個人情報の掌握強化と民間利用の狙いを埋め込んだ。

 特許庁ITシステムの開発頓挫は、マイナンバー制度システム開発にも重大な懸念を想起させる。法案で孫委託まで容認しているこの番号制度システムは、特許申請とは比べようもなく複雑であり、開発会社の無能・不誠実や孫会社の不正・反社会性が潜入するリスクが高い。個人医療情報との結び付けはリスクを飛躍的に拡大する。

 まだまだ議論・クリアすべき問題が山積の共通番号制度である。今国会中の採決は時期尚早である。

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