TPPでほんとに日本は大丈夫?/参加型トークバトル大好評
賛成論 対象外の医療保険への心配は杞憂
反対論 失うものは日本の社会や制度
協会はより多くの会員と意見交換を行うべく、参加型講演会を企画。「ほんとに日本は大丈夫?」をメインテーマとした連続講演会で、第1弾となる「TPP参加で、ほんとに日本は大丈夫?」を9月15日に開催した。講師にキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏、東京大学大学院農学国際専攻教授の鈴木宣弘氏を迎え、TPP参加への賛成・反対両論の講演をトークバトル形式で行った。参加者は43人。
山下氏は、TPPは日本の成長戦略および中国の経済活動に対する国際規律として重要な条約である。TPPを批判する人たちの多くは、通商交渉や国際経済法の初歩的知識さえ持ち合わせないと批判した。
公的医療保険は、そもそもWTOのサービス協定の対象外であり、従来の自由貿易協定の対象となっていないことを解説。ゆえにアメリカはTPPで公的医療保険をとりあげないことを表明しているのであり、公的医療保険が崩れるとの心配は全くの杞憂だとした。
少子高齢化へ突き進む日本では、もはや高関税による国内農業保護が限界にきている。農業を守るためには輸出に頼らざるを得ないと結論付けた。
対して鈴木氏は、山下氏から条約や法律の専門家でない人たちがTPPを批判していると指摘された点について、確かに条約の交渉等、技術的な面では専門家が必要であるが、我々が訴えているのはTPPの本質とは何かということであると強調した。
この段階で日本がTPP交渉に参加することで、アメリカと対峙し、協定内容について自国の意見を反映させることができるとの認識は誤りだと指摘。TPPの本質は例外なき関税撤廃であり、なおかつ「競争条件の平準化」として、日本の社会システムや、制度そのものに対する徹底した規制緩和が求められてしまう条約だと説明。例外なき関税撤廃が実行されれば、日本の基幹産業たる水田農業、ひいては農業全般の崩壊から地域社会の崩壊へとつながることは避けられないとした。
さらに、公的医療保険はこの「競争条件の平準化」に対する障壁の筆頭と指摘。確かにアメリカは国民皆保険をTPPの対象外と表明しているが、ISD条項によって民間保険会社の市場拡大の障壁だと提訴されることや、日本の薬価決定過程に自国の参入を求めていることなどから薬価高騰が引き起こされる可能性が高く、結果的に医療財源が圧迫されることが考えられる。
つまり、公的医療保険自体はTPPの協定内容に含まれていなくとも、外堀を埋められる形で影響を受けると考えられ、楽観視できるものではないとした。
TPPに参加することで失うもの、得るものを考えた場合、失うものは関税撤廃・規制緩和による日本の社会システムの崩壊であり、得るものは日本の政府試算でもわずかGDP0・5%増というもの。これだけを見てもTPPに参加するメリットはなく、もっと別の、人々の幸せにつながるような経済連携を模索すべきだとした。
両氏の講演後、参加者を含めた意見交換を行い、会員からも賛成・反対両論が出される活発な討論となった。
賛成論の山下氏(左)と反対論の鈴木氏(右)
両氏の主張を熱心に聴く会員