年末調整と決算対策のポイント  PDF

税理士 橋本清治

給与支払者にとって1年の締めくくりの手続きとなる年末調整。橋本清治税理士にポイントを解説いただいた。マイナンバーの取り扱いについては本紙6面を参照下さい。

年末調整とは

給与の支払者は、毎月の給与や賞与を支払う際に所定の「源泉徴収税額表」によって所得税を源泉徴収しなければならない。その源泉徴収した税額の年間合計額は、給与を受け取った人の年間給与総額に対する所得税額(年税額)と一致しないのが通常である。
その主な理由は、①源泉徴収税額表が年間を通して毎月の給与の額に変動がないものとして作られており、実際には年の中途で給与の額が改定されている場合があること。②年の中途で扶養親族等に異動があっても、異動後の支払い分から源泉徴収税額を修正するだけで、さかのぼって各月の源泉徴収税額が修正されないこと。③配偶者特別控除や生命保険料・地震保険料の控除など年末調整の際に控除されるものがあることなどがあげられる。
この不一致を精算するために、年間の給与総額が確定する年末にその年の所得税額(年税額)を正しく計算し、これまでに徴収した税額との差額を徴収又は還付することが必要となる。この精算手続を「年末調整」と呼んでいる。

年末調整の事務手続き

① 源泉徴収簿に記載した毎月の給与や賞与の支払額、給与・賞与から控除した社会保険料(雇用保険など)、源泉徴収した税額の年間合計額を計算する。年の中途で採用した従業員の場合には、前職(1月から退職月まで)の源泉徴収票に記載された給与等の金額を合算する。
② ①で集計した年間の給与の総額から「給与所得控除後の給与等の額」を求め、「所得控除」の合計額を差引し、「課税所得金額」を算出する。「課税所得金額」に税率を乗じて税額を求め、住宅借入金等特別控除を控除して年調所得税額を算出する。
③ ②で求めた年調所得税額に102.1%を乗じて、復興特別所得税を含む年調年税額を算出する(100円未満の端数は切り捨て)。
④ ③で求めた年調年税額と従業員から源泉徴収した年間の税額との差額を本人還付(不足の場合は徴収)する。
⑤ 従業員から源泉徴収した税額(未納付分)に年末調整の過不足税額の合計額を加えて、翌年の1月10日(納期の特例が提出されている場合は20日)までに納付しなければならない。

年末調整事務の留意点

① 給与所得控除額について
給与等の収入金額が1,200万円を超える場合の給与所得控除額は230万円(29年分以降は給与収入が1,000万円を超える場合は220万円)の定額とされた。
② 扶養控除等(異動)申告書について
「平成28年分扶養控除等申告書」の提出がない場合(乙欄適用)には、年末調整することはできない。正社員・パート・アルバイトを問わず「扶養控除等申告書」を受理する必要がある。平成28年中に扶養親族等の異動があった場合には「扶養控除等申告書」に変更の内容を記入しなければならない。
平成23年分から扶養控除の対象を16歳以上の扶養親族とされている。16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)については、扶養控除を受けることはできないが、住民税に関する事項の欄には、記入する必要がある。
19歳以上23歳未満の扶養親族については、特定扶養親族の欄に○を付ける(扶養控除の額63万円)。居住者の控除対象配偶者又は扶養親族が障害者である場合には、障害者の欄に○を付ける(障害者控除の額:一般障害者27万円・特別障害者40万円・同居特別障害者75万円)。

(注)平成28年分扶養控除等(異動)申告書について
マイナンバー制度の導入に伴って、平成28年1月以降に受理する「扶養控除等申告書」に個人番号(マイナンバー)を記載することが義務づけられた。次に該当する場合は個人番号を記載しなくても差し支えないものとされている。
ア.給与支払者と従業員との間での合意に基づき、従業員が扶養控除等申告書の余白に個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない旨を記載していること。
イ.給与支払者が既に提供を受けている従業員等の個人番号を確認した旨を扶養控除等申告書に表示していること。
ただし、平成28年分源泉徴収票を市区町村に提出(期限平成29年1月31日)する際には、個人番号を記載する必要がある(国税庁等のホームページ参照)。

③ 国民年金保険料・国民年金基金掛金について
国民年金保険料および国民年金基金の掛金について社会保険料控除の適用を受ける場合には、「保険料控除申告書」に支払額を記入するとともに証明書を添付しなければならない。平成26年4月から2年分の国民年金保険料を前納することができることになった。支払った保険料については、納めた年に控除する方法と各年において控除する方法を選択適用することができる。
④ 後期高齢者医療制度の保険料について
従業員が生計を一にする親族の後期高齢者医療制度の保険料を口座振替等により支払った場合には、社会保険料控除の適用を受けることができる。なお、後期高齢者医療制度の保険料が年金から天引きされている場合には、年金受給者が社会保険料控除の適用を受けることになる。
⑤ 生命保険料控除について
生命保険料控除は、従来、一般の生命保険料控除(最高5万円)と個人年金保険料控除(最高5万円)であったが、平成24年分以後、介護医療保険料控除(平成24年1月1日以後締結等したもの)が設けられ、これらの控除の合計適用限度額が12万円とされた。
平成24年1月1日以後に締結した契約等については、一般生命保険料控除(最高4万円)、個人年金保険料控除(最高4万円)、介護医療保険料控除(最高4万円)を受けることができる。
したがって、生命保険料控除は、平成23年12月31日以前に締結した契約等に係るものと平成24年1月1日以後に締結した契約等に係るものに区分し計算することになる。なお、新旧両方の保険契約を締結している場合には、納税者の有利な方を選択することができる。
⑥ 地震保険料控除について
地震保険料を支払った場合には地震保険料控除の適用を受けることができる(最高5万円)。経過措置として、平成18年12月31日までに締結した長期損害保険契約(保険期間10年超、満期返戻金有、平成19年1月1日以降契約内容を変更していないもの)については、従来と同様に控除を受けることができる(最高1万5千円)。
地震保険料と長期損害保険料の両方ある場合には、控除額は合わせて最高5万円。
⑦ 個人の府民税および市民税の住宅借入金等特別税額控除制度について
住宅借入金等特別控除の適用がある者(平成21年から平成31年6月30日の間に入居する者に限る)について、所得税の額から税額控除することができない住宅借入金等特別控除の額がある場合には一定額を住民税の額から控除される。
適用を受ける際には、源泉徴収票の摘要欄に「居住開始年月日」、「住宅借入金等特別控除可能額」を記入する必要がある。

決算対策と消費税(1000万円超個人事業者)

決算対策と消費税の留意点はつぎのとおりである。
1.決算
所得金額は、収入金額から必要経費を差引し算出されるため、本年分の収入金額になるものや未払経費・減価償却費など本年分の必要経費になるものを計上する必要がある。この手続きを「決算整理」という。
(1)収入金額
年内に保険診療・検診・予防接種等を行ったもので、年末までに入金していないものは、未収入金に計上し収入金額に計上する必要がある。
(2)必要経費
① 薬品等の棚卸
医薬品や診療材料等は、収入の原価として実際に使用したものが必要経費となる。棚卸の金額は、年末に残っている薬品等の数量(実際に調べる)にその年の最終の仕入単価(納入価)を乗じて計算する(消費税分はプラスする)。
② 少額減価償却資産の必要経費算入
青色申告者が1個・1組30万円未満(消費税込)の器具備品等を取得し事業に使用した場合には、取得価額の合計額が300万円に達するまでの金額(平成28年1月1日以降に開業された方は取得価額の合計額300万円を按分計算)を取得した年の必要経費にすることができる。確定申告書に取得価額に関する明細書を添付する必要がある。

(注)少額減価償却資産を取得した年に必要経費に算入した場合は、償却 資産税の対象資産となるので留意する必要がある。

③ 減価償却制度について
減価償却資産(建物・医療機械など)について平成19年4月1日以後に取得したものと平成19年3月31日以前に取得したものに区分し、それぞれの償却方法で減価償却し、必要経費に計上する。平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産について償却費の累積額が取得価額の95%に達している場合には、取得価額の5%から1円を控除した額について、5年間均等償却し、必要経費に計上する。
所有権移転外リース契約については、リース資産を売買により取得したものとされるため、リース料総額(取得価額)をリース期間定額法により減価償却し、必要経費に計上する。

(注)平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備・構築物の償却方法は定額法とされたので、留意する必要がある。

④ 特別償却の必要経費算入等
青色申告者が適用することができる主な特別償却等は次のとおりである。その選択にあたっては、その可否を検討し、特別償却等を適用する必要がある。

「医療用機器等(新品)の特別償却(措置法12条の2)」
取得価額500万円以上(消費税込)の医療用機器(平成29年3月31日までに取得等したものに限る)を取得し事業の用に供した場合には、普通償却費とは別に取得価額の12%を特別償却することができる。ただし、所有権移転外リース契約については、特別償却制度の適用を受けることができない。

(注)平成21年4月1日以降取得等した医療機器は厚生労働大臣が指定したものが対象とされる。

「中小企業者の機械等(新品)の特別償却又は税額控除(措置法10条の3)」
取得価額120万円以上(消費税込)の一定のコンピュータ等(一定のソフトウエアは70万円以上)を取得し事業の用に供した場合には、普通償却費とは別に取得価額の30%の特別償却か取得価額の7%の税額控除のいずれか選択適用することができる。なお、平成29年3月31日までに取得等をした特定機械装置等のうち特定生産性向上設備等に該当するものは、その普通償却費との合計でその取得価額までの特別償却か取得価額の10%の税額控除のいずれか選択適用することができる。
所有権移転外リース契約については、リース料総額が上記要件を満たせば、税額控除の適用を受けることができる。ただし、特別償却制度の適用は受けることができない。

「生産性向上設備等(新品)の特別償却又は税額控除(措法10の5の4)」
特定生産性向上設備等(平成29年3月31日までに取得したものに限る)の取得等し、事業の用に供した場合には、その取得価額の50%(建物・構築物は、25%)の特別償却か取得価額の4%(建物・構築物は、2%)の税額控除のいずれか選択適用することができる。なお、平成28年3月31日までに取得等をし、事業の用に供した特定生産性向上設備等は、上記にかかわらず、その普通償却費との合計でその取得価額までの特別償却か取得価額の5%(建物・構築物は、3%)の税額控除のいずれか選択適用することができる。

「雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除(措法10の5の3)」
次のすべての要件を満たすときは、雇用者給与等支給増加額(注1)の10%の税額控除ができることとされた。
① 雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額に対する割合が3%以上(平成29年・平成30年は3%以上)であること。
② 雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額(前年)以上であること
③ 平均給与等支給額(注2)が比較平均給与等支給額(前年)を超えていること。
(注1)雇用者給与等支給額(今年)- 基準雇用者給与等支給額(25年分)
(注2)継続雇用者(雇用保険一般被保険者)に対する給与等支給額

2.消費税
平成26年分の課税売上(検診や予防接種、自費診療等)(注1)1000万円超の事業者又は平成27年分の特定期間(注2)の課税売上1000万円超の事業者は、平成28年分の消費税課税事業者となる。
平成28年分から新たに課税事業者になられた方で、簡易課税制度を選択した場合には、簡易課税制度を2年間継続する必要がある。
平成29年分の消費税申告分より「本則課税」から「簡易課税」に変更する場合、「簡易課税」から「本則課税」に変更する場合や平成23年税法改正(注3)の適用により平成29年分から課税事業者になられる方で、「簡易課税制度」を選択する場合には、その可否を検討し、平成28年12月31日までに税務署に所定の届出書を提出する必要がある。

(注1)事業資産の譲渡や他の事業、不動産収入(地代収入、居住用の賃貸収入は除く)なども自費診療等に合算するので注意が必要である。
(注2)免税事業者の判定(平成23年消費税法改正)
基準期間(前々年)の課税売上が1,000万円以下、前年の1月から6月まで(特定期間)の課税売上が1,000万円以下(売上に代えてその期間の給与支給額でもよい)のいずれにも該当する者が免税事業者となる。
(注3)高額特定資産(税抜1,000万円以上)の取得等した場合
課税事業者を選択および簡易課税制度を選択していない事業者が、平成28年4月1日以降、高額特定資産(税抜1,000万円以上)を取得等した場合は、取得等した日の属する課税期間の翌課税期間から2年間は、事業者免税点制度及び簡易課税制度を適用されないこととされた。

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