治療変更は必要性を診断して 入院継続から通院へ
退院勧告を拒否しての長期入院継続があり、医師・医療機関側が、医療事故による債務不存在の確認と病院からの退去などを求め訴訟提起したところ、患者側は、医療過誤の損害賠償を反訴した事例があり紹介する。
糖尿病患者62歳男Yは胸痛を発症し3日後の2002年11月16日、鳥羽市のX病院で、心電図検査で急性心筋梗塞と診断され、18時25分ころ右肘部から右上腕動脈を穿刺して心臓カテーテル検査のうえ、冠動脈の一部に100%の狭窄が認められ18時45分ころ経皮的冠動脈再建術(PTCA)とステント留置がなされ、19時20分頃圧迫止血器が装着され55~60mlの空気が注入された。装着10分ころ同部に痛みや痺れを訴えたので、看護師は穿刺部位から出血なく橈骨動脈の拍動を確認して鎮痛剤を服用させ、15ml抜気した。4時間までは1時間毎に以後2時間ごとに経過観察し20時30分に鎮痛剤を筋注して更に5ml抜気した。翌17日午前0時頃から6時頃まで疼痛などの訴えなく、6時30分ころ「手が痛くて痛くて」と訴え、8時頃装置が抜去され、昼頃には「痛みはだいぶよくなった」とのことであったが、同月20日には、「検査が終わってからずっと右手がしびれ、感覚もよく分からん」と訴え、運動障害も訴えた。Yは、正中神経不全損傷から反射性交感神経性萎縮症(RSD)を発症して拘縮が生じたとして、鎮痛剤の投与や右上肢へのリハビリによる機能訓練が行われ、5年間入院を継続した。
X病院長は、入院後1年8カ月時点より患者Yの病状から入院の必要性はないと診断し、05年11月1日付け(3年後)で退院命令を通告した。身体障害第3級が認定され診療費が公費負担となっており、未払診療費および食事療養費計175万余円を請求して、病院からの退去を求め06年4月提訴した。
そこでYは、3時間程度で圧迫止血器を除去せず、不十分な減圧処置をした医師・看護師の過失を根拠に、身体障害・就労困難などにつき4908万円の損害賠償を求めて反訴し、診療費などは3年の短期消滅時効の援用を主張した。
裁判所は、診療当時、止血時間および管理方法に明瞭なガイドライや文献なく、G大学病院・G市民病院では午後の検査では翌日まで装着されており、病棟看護師には圧迫止血時の経過観察上の過失がないとして、Xの損害賠償債務を否定した。04年6月28日現在でYの心機能はほぼ正常化し入院加療の必要がないと診断され、右上肢の症状に対し薬物療法・理学療法等がなされていたが、05年10月31日現在入院の必要がないと診断され、その後も診断に変わりなく、Yには病院からの退去と未払金等の支払いを命じた(岐阜地判平成20・4・10)。Yは控訴したが、減縮した額63万余円の支払いと退去が命じられた(名古屋高判平成20・12・2)。
入院については診療の求めに関連して、「患者に与えるべき必要にして十分な診療とは医学的にみて適正なものをいうのであって、入院を必要としないものまでも入院させる必要はない」(病院診療所の診療に関する件:昭和24・9・10医発752、厚生省医務局長通知)とされる。
(医療安全対策部会 宇田憲司)