TPPの承認案と関連法案の採決が、衆院特別委員会に続き衆院本会議でも強行された。環太平洋地域の自由貿易を進める判断だ。一見お互いに自由に取引ができて公平なように見えるが、現実には国力・経済力・生産能力にはそれぞれの国の差があり、これまでは関税をかけることでその差を埋めて公平な取引になるように(少なくとも一方的に不利益な取引にはならないように)、自国の産業が衰退しないように工夫をしていた。
TPPの説明では、メリットとして関税の撤廃により安く購入でき、輸出が増えて利益が増すなどがあると語られる。しかしながら、これはあくまで多国籍企業の利益であり、国民へのメリットではない。一方、TPP参加によって外国製品の流入により国内産業が衰える、特に食品に関する農業や畜産が衰えて自給自足能力が失われる、食の安全の確保がままならないという心配がある。また、これまで協会が主張してきたように、薬価決定過程への米国製薬企業の介入など国民皆保険を空洞化させる懸念などがある。これは患者にとってはもちろん、医師にとっても大変なことだ。
ISD条項(投資家対国家の紛争解決)により日本国内の仕組みが参入障壁とみなされて企業から訴えられる懸念についても、岸田外相は「提訴されることは考えていない」と答弁している。これでは、国民の不安や懸念を払拭するような議論がされたとは到底言い難い。
審議入りした今春の通常国会では、政府の公開した交渉関連文書はタイトルと日付以外はすべて黒塗りとされるなど情報開示を巡って紛糾した。今国会においても、日本語の正文が存在しない中で誤訳や脱落が発覚、さらに輸入米の取引価格の偽装で影響試算の根拠を失うなど審議の前提さえそろわない状態である。
日本の将来を左右する決定に、いくら時間をかけようとも慎重すぎることはない。TPPからの離脱を表明しているトランプ氏が米国大統領選で勝利し、発効が困難視される中ならなおさらだ。政府はすべての情報を開示した上で、国民に問い直すべきである。