新たに「保健福祉センター」へ
市は2016年9月、京都市会教育福祉委員会に「子ども若者はぐくみ局(仮称) の創設等に係る検討状況について」を報告。「子どもや青少年等に関する施策を融合」し、子育て支援策を一元化し、支援・対策を総合的かつ積極的に進めるため、「子ども若者はぐくみ局(仮称)」(以下、はぐくみ局)を、17年度に創設すると打ち出した。
これにより、保健福祉局の児童家庭課や保育課、児童福祉センターはもちろん、 文化市民局や教育委員会関連からも、はぐくみ局へ移管される。
ただし、障害児施策は発達支援施策を除いて、現状と同様成人と同じく保健福祉局で所管。生活保護に関することも移管されない。これに対し、京都市の「児童観」にかかわる問題として疑問の声もあがっている。
さらに心配されるのは、はぐくみ局創設に乗じて出された各区役所・支所の機構改革である。
現在、京都市内11行政区に設置されている保健センターは、10年度までは「保健所」だった。これを市は全て廃止し、本庁に京都市保健所として一本化。行政区の保健所を保健センターに改めたのである。協会は当時、京都市内の多くの地区医師会長から賛同を得、「医療・福祉関係者・市民との合意形成なしに進めてはならない」「公衆衛生施策の後退につながる恐れがある」と批判し、議会や部局へ陳情・要請を行ったが、強行された経緯がある。
今回出されたのは、保健センター自体を福祉事務所とともに「保健福祉センター」へ再編する方針である。市当局は11月の市会に「事務分掌条例案」「システム改修経費の補正予算案」を提出する予定である。
保健福祉センターへの統合で、本当に京都市民の生命と健康が守れるのか。
協会は独自の聞き取り取材を進めると同時に、11月15日には京都市保健福祉局・保健衛生推進室・保健医療課から直接説明を受けるなど、取り組みを強めている。
京都市に意見書を提出
なお、協会は11月18日付で京都市の保健医療施策についての意見を「福祉・公衆衛生を守り、向上させる地域文化を守るために」としてとりまとめ、保健医療課を通じて門川大作市長に提出。全ての子どもたちの育ちを支える施策を求めるとともに、京都市民はもちろん、国内外から多くの人たちが訪れる国際観光都市として、感染症や食中毒等の健康管理危機に対応するためには、地域密着の保健センター機能が必要なのではないか。市当局として、慎重な対応が必要だと指摘している。
はぐくみ局は育ちめぐる課題に応えられるのか
11月15日の市当局による協会への説明は、9月、11の京都市会の教育福祉委員会への報告に沿って行われた。
京都市は、子ども若者はぐくみ局(仮称)を創設するのに伴い、区役所・支所にも子どもはぐくみ室(仮称)を設置する。これは、「子どもの総合的かつ専門的な窓口」とされ、「子育て支援コンシェルジュ機能を担える職員」を育成するという。
同時に、「障害保健福祉、健康長寿推進、生活福祉(生活保護等)、保険年金、医療衛生相談(保健福祉局直轄)の五つの窓口を設置するとともに、福祉事務所と保健センターの垣根を取り外して、保健福祉センター」を創設する。
はぐくみ局所管となる業務のうち、「障害児に関すること」の移管について、9月段階では「更なる検討を行っていく業務」(つまり検討中)とされていた。
11月段階で京都市会へ報告した「子ども若者はぐくみ局(仮称)の創設に係る所管業務等の検討について」で、「子どもの発達支援に関すること」をはぐくみ局が、「障害のある方の支援」は、「生活保護に関すること」とともに、保健福祉局が所管すると整理された。
これに対し垣田理事長は、「現場の小児科医は、貧困や発達障害のボーダーラインにある子どもたちを支える仕事に様々な悩みを抱えている。そうした課題に応え得ることこそ、はぐくみ局に求められている」「市が対象を区分することにより、手帳が発行された子どもや、生活保護受給世帯の子どもが、他の子どもたちとは違う、という話にならないのか心配」と述べた。
これに対し市当局は、指摘の点は議論が続いてきたが、生活保護については、子どもたちだけを取り出して対象とせず、世帯として自立を支援する。障害については、ボーダーラインの子どもたちや障害を受容していない段階の親御さんにとって、子どもの窓口が適切な面がある。一方で重い障害のある子どもたちはより濃密な支援が必要で、障害者福祉で対応するのが適切と判断された。ただ、どのような考え方をとっても、違う一方の考え方があり得る問題である。どのような形になっても、連携を進めることが必要との認識を示した。
危機管理業務等を「集中化部門」に集中
保健福祉センター化に伴い、医療衛生部門がどうなるかは地域の医療者にとって注目する点である。
各区の保健センターの業務は大きく、「健康づくり推進課業務」(精神分野、自立支援医療、難病、保健協議会、献血、予防接種、医療相談等)と「衛生課業務」(食中毒等の衛生に関する業務、動物愛護関連業務)に分かれている。
「健康づくり推進課業務」の多くは、新たな保健福祉センターに設置される子どもはぐくみ室や、障害保健福祉課等が担うとされる。
一方、「衛生課業務」は大きく変更されそうである。
区役所と新たに支所にも設置される「医療衛生部門」は、「係長級以下を配置」する「窓口」である。
現在、各区の保健センターが担っている、急性感染症対応等、医療監視、無許可営業等、昨今問題となっている違法な「民泊」への指導、生活衛生関係営業施設(旅館・公衆浴場・理容所・美容所)、食品関係営業施設の許可・届出・および監視・指導、食中毒対応等は、「主に計画的・一体的に行う業務および危機管理業務」として、京都市内に一箇所設置する「集中化部門」で取り扱われる。
市とのやりとりでは、区役所、支所の「医療衛生課部門」に何人の職員が配置されるか、当該職員の専門職資格の有無等は確定していないとのことだった。ただし、新たな業務を除き、人員は増やさないことが前提であり、現保健センターから専門職者も含めて集中化部門に異動するため、区役所サイドの人員は減となる。
協会は、地域に密着した保健センターが日常的な立入業務を通じ、市民の健康を支えている。その下地があってこそ、感染症や食中毒等の危機対応も、迅速・的確に行えるのではないか。窓口だけにしてしまっていいのかと、懸念を表明した。
市の説明文書に「健康危機管理業務」について、「広域的な事案等に対して、効果的かつ効率的に対応する体制が組みにくい」とあるが、広域的な事業等への対応が必要だから保健センターの業務を縮小するという理屈は成り立たない。むしろ、地域の保健センターの専門性を一層高め、加えて広域的な事案への対応は本所の体制を強化した上で、連携方法の改善を図ることこそが必要ではないか。さらに今日、保健センターと保健協議会をはじめ住民、医療者らがともに地域の保健衛生を守る文化があり、これが京都市にとって大切なことではないかと指摘した。
保健衛生行政は自治体の「核」
保健衛生行政は地方自治体の最も基本的で重要な部分である。かつて京都市では、すべての行政区に保健所があり、住民と共に公衆衛生を推進し、以て生命と健康を守ることが目指されていたのではないか。今回の保健福祉センター構想で、本当にきめ細やかな施策が進められるのか。感染症や食中毒へ対応についてシミュレーションができているのか、不安は拭えない。
すべての子どもの育ちを保障できる行政の在り方や、保健衛生行政の在り方について、京都市はもっと時間をかけ、慎重に対応すべきである。
市保健医療課と懇談する垣田理事長
地区懇談会でも懸念の声
京都市の一連の機構改革について、協会は今年度の地区医師会との懇談会でも情報提供している。11月7日の伏見医師会との懇談会では、会長の辻幸子氏から懸念が表明された。
すでにこの件は伏見保健センター長から説明を受けたが、地区として了承したわけではない。説明を聞いて、京都市の公衆衛生に対する姿勢に疑問を覚えた。さらに小児科医の立場から、子ども若者はぐくみ局ができた時の障害のある子どもたちへの対応について、市側は障害児はいずれ大人になっていく。制度的に縦につながっていくので別建てであるとの説明だった。
しかし、在宅で子どもたちをみていると、保護者は保育所入所の相談、おむつ支給と様々な窓口へ行かねばならない現状がある。せっかく素晴らしい名前の局をつくるのだから、障害のある子どもたちも含めて、子どもへの施策として一元化すべきだと考える、とコメントされた。