日本の医療は、世界の中でも高水準であり、コストも低い。これは大学病院・基幹病院のみならず、医療機関の大多数を占める診療所や中小病院による疾病予防活動、疾病の早期発見・早期治療による重症化の防止といった地道な日常診療活動に支えられているものが大きな部分を占めている。これは国民皆保険制度のもと、患者が安心して早期に医療機関へ相談ができること、そしてそれに対応するかかりつけ医の誠実な努力により支えられている。本年度の診療報酬改定は、本体プラス0・49%であったが、実質はマイナス1・43%であった。とくに7対1入院基本料や医療療養病床の施設基準の厳格化などは、中小病院には死活問題とさえいえる厳しいものである。すなわち、世界最高水準にある日本の医療を支えている基礎を崩壊させかねないものである。
政府は社会保障制度改革推進法に則り、医療を『効率化』することを目標に、病床機能分化・過剰病床削減を実施して患者の在宅移行を促進し、その受け皿としての地域包括ケアシステムの構築を推進してきた。医療・介護などの患者負担は今後さらに増加するであろう。システムの効率化には限度があり、臨界状態にまで持っていってしまうと、わずかなバランスの崩れから一挙に崩壊する恐れがある。さらに「骨太方針2016」では、医師の地域偏在・診療科偏在対策に着手しようとしていることが明らかとなった。保険医定数制の導入などがいよいよ議論の俎上に上る。各方面から地域医療が崩壊すると実施が懸念されている新専門医制度は、医師の水準向上が目標であると謳いつつ、同時に医師の診療科偏在の解決も目的としており、その問題点は制度に柔軟性がないことにつきる。これも医師数をコントロールしようとすることからくる矛盾である。医療現場の声を聞かずに経済・政策を優先しすぎると、医療現場に矛盾が噴出し、かえって目標から遠ざかることになる。
安倍首相は、消費税の引き上げを2019年10月までの2年半延期することを決定した。これはアベノミクスが現時点で期待通りの成果を得られていないことを示しており、史上最高366兆円もの大企業の内部留保という富の偏在、生活保護受給者が高齢者世帯の半数超・子どもの相対的貧困率16・3%という国民間の格差拡大がさらに進み、本来の意図とは異なる皮肉な結果になっている。将来が見通せない不安定な状況下では、国民は自衛のために消費行動を抑制することは自明のことである。国民が安心して生活する基盤となる社会保障は、われわれが提言する社会保障基本法を制定するとともに、その財源は、国民負担の増加により消費意欲を停滞させる消費税は最小限とし、極端な富の偏在を解消すべく所得再分配を行うようにすべきである。
最近の高額薬剤の保険適用など国民皆保険制度を根本から揺るがしかねない可能性を孕む問題も発生しており、今後も注視が必要である。現代の不平等条約になりかねないTPPやTiSAなどを契機にこうした問題が次々と生じてくることは必至であり、医療制度を崩壊させる可能性のあるものへの参加からは撤退すべきである。
私たち保険医は、日本の良き医療制度を守るためにも、国民皆保険制度を堅持し、良き医療・良き医療経営を行う。また経済効率一辺倒で医療現場の実情を顧みない政治に、現場の声なき声とならないよう、しっかりと意見を言っていく。そのために、下記の決議をする。
一、我々保険医は、これからも国民皆保険制度を堅持し、良き医療を行い、国民の健康を支えていく。
一、日本の医療を根底から支える診療所・中小病院が安定的に経営できるよう、診療報酬で適正に評価すること。
一、社会保障制度改革推進法による経済効率を優先した制度改革では今後確実に医療現場に矛盾が噴出する。我々が提言する社会保障基本法を制定すること。
一、地域医療を崩壊させる恐れのある新専門医制度は、そのあり方も含め再検討すること。
一、医師の診療科・地域偏在の解消策は、保険医定数制などの規制的手法によらないこと。
一、世界に冠たる日本の皆保険制度を根本から揺るがすTPPへの参加から撤退すること。
一、原発事故による被曝と健康被害に対して、政府はその責任において検証と補償を行うこと。
一、我々命を守る医師は、地球環境を守り、脱原発、戦争をしない平和な日本を創る運動の担い手を目指すこと。
2016年7月31日
京都府保険医協会
第69回定期総会
(第191回定時代議員会合併)
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